2013年08月03日

MTFについてのお勉強4

今回もしつこく?MTFについて、書き留めておきます。本当は全3回で終了し、テキストのレッスンへ戻るつもりでした。それが記事をアップロードしたあとにZEMAXを触っていると、いろいろ新発見(私にとって)があったので、その辺りについて記録しておきます。


エアリーディスク径をZEMAXで確認

前回各F値でのエアリーディスク径を手計算で算出したものの、間違っていなかったか、確認していなかったので、ZEMAXで確認してみました。

20130801090916.png
「F値20」のエアリーディスク半径:14.33um

前回、手計算した時は「F20 :14.2um」でした。これは波長の値を適当に真ん中あたりの「582nm」として計算したので、ZEMAXでの計算値と微妙に誤差があっためだと思います。念のためマニュアルを調べると、スポットダイアグラムのエアリーディスクの計算は、ZEMAXでは波長幅がある場合は主波長で計算する、と書かれていまいた。つまり、今は「d線(587nm)」が使用されたので、間違っていなかったことが確認できました。(マニュアルにもばっちりエアリーディスク径計算式が載っていました)

また、像高7mmでエアリーディスク径より大きくなってくるので、この辺りからコントラスト再現比が悪くなるのだろう、とスポットダイアグラムから読み取ることができます。そこで、スポットダイアグラム図とMTF曲線を比較してみました。

20130801092236.png
像高6mmを追加したスポットダイアグラムとMTF曲線の比較

像高6mmまでは、ほぼコントラスト再現比の低下はなく、この範囲はスポットダイアグラムではエアリーディスク内に収まっていることが確認できます。



限界分解能の計算とZEMAXの計算結果の比較

MTFの学習のはじめに、「エアリーディスク半径が分解能の限界になる、レイリーの判断基準」について学びました。

ここで分解能の限界についても計算してみました。
現在のエアリーディスク半径は「14.33um」です。
これを相当する空間周波数に換算すると、
 1mm / 0.01433mm = 69.8(本)

つまり、計算上では、70本/mm で性能限界、つまりコントラスト再現比が0になるのであろう、と予測した上で再度MTF曲線を確認してみます。

20130801092506.png
70本/mm でコントラスト再現比が0.1くらい、これ以下は意外に粘る模様

大きくは外していませんが、残念ながら70本でも0にはなっていません。そしてコントラスト再現比0.1以下は結構粘るようです。
これはどういうことだろう、とお馴染みGoogle先生に問い合わせ(ただの検索です)してWEB上の情報を漁ってみると、「株式会社ヴイ・エス・テクノロジー」の用語解説のページに以下のように書かれていました。(このページもMTFについて詳しく記載されています)


限界解像力の周波数を超えるとコントラストがなくなり像はグレー一色となり区別がつかなくなります。実際にはレンズに収差がある為、限界解像度に達する前にコントラストが失われてしまいます。一般的にはしきい値は0.1とされています。(引用)

この他にも0.1を限界とする、と行った情報が散見されたので、コントラスト再現比0.1が限界分解能というのは、一般的な見方のようです。コレに倣い「コントラスト再現比0.1を限界とみなす」ならば、今回のエアリーディスク半径から計算した限界分解能は、ZEMAXの示す結果と一致した、といえるでしょう。
自分で計算した結果が、コンピュータで確認して一致した時は、なんとも嬉しいものです。



ZEMAXの分析結果は、幾何光学的?波動光学も考慮?

以上の計算&ZEMAXで確認を行なっているうちに、以下の点について疑問を持ちました。

 ・スポットダイアグラムでは、エアリーディスク内に収まっている。
  → つまり、回折の影響は無視されている、幾何光学的計算のみ

 ・前回確認していたMTF曲線では、回折限界によって、F値を小さくするとコントラスト再現比が低下した。
  → つまり、回折の影響が考慮されている、波動光学的計算も

実はこれは、これまで全く意識していませんでした。しかし、一度気になると気になるものです。すると、MTF曲線図に「Diffraction:回折」と書かれていることに気付きました。

20130723124705.png
「Polychromatic Diffraction:波長に幅がある(多色の)回折」と表記

MTFって回折についてどのように計算しているのだろうと、少し調べるとZEMAX上のMTFには3種類存在することが分かりました。



ZEMAXのMTFの種類

まず、3種類を下記します。

 FFT MTF :高速フーリエ変換による、「回折あり」
 Huygens MTF :ホイヘンスの直接積分法による、「回折あり」
 Geometric MTF :光線収差に基づき回折MTFの近似による、「回折なし」

これら3種類で、普通に(Mtfボタンから)MTF曲線を表示させると「FFT MTF」が表示されるようです。これまで使用してきたMTFは全てこの高速フーリエ変換による「FFT MTF」です。その他のMTFの表示は、「Analysis => MTF」の 以下のメニューから。

20130801101643.png
幾何光学的MTFの呼び出し

これらは、もちろん状況に応じて使い分ける必要があるようです。例えば、ホイヘンスMTFは、最も高精度といった情報も見かけましたが、計算に時間を要するようです。以下はマニュアルとにらめっこしながら、なんとなく理解した内容を備忘録として書き留めておきます。

 高速フーリエ変換MTF:射出瞳でコサイン空間での均一な光学系
 ホイヘンスMTF:射出瞳上で不均一な光学系(シリンドリカルレンズとか?)
 幾何光学的MTF:OPDが10波長以上の収差が大きい光学系(カメラレンズなど)

これらは、今後実際に使っていながら学んで行くことにしましょう。


posted by ひよこデザイナ at 13:37 | Comment(0) | TrackBack(0) | 光学関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2013年08月05日

レッスン5:レーザービームエキスパンダの設計1

レーザービームエキスパンダの設計


練習内容:マルチコンフィギュレーション
■設計条件
 ・使用レーザー波長:1053nm
 ・ビーム径、入力:100mm、出力:20mm ともにコリメート
 ・使用レンズ:2枚
 ・ガリレアン式、内部でフォーカスしないこと
 ・レンズ間の距離:250mm以内
 ・非球面:1枚
 ・試験波長:632.6nm 

まずは、この設計条件をしっかりと理解するため、不明確な単語をつぶしていきます。

■ビームエキスパンダ
その名の通り、レーザーのビーム径を平行に拡げるための光学系
参考ページ:レーザー・コンシェルジェ株式会社のHP

■ガリレアン
ガリレアンで検索をかけると、ZEISSの双眼ルーペがTOPにヒットしました。お医者さんが施術の際に使う「目の前に付けるヤツ」です。私は海外ドラマのファンなので医療系ドラマの施術シーンで良く見かけます。
ガリレアン方式のレンズ構成は、2枚で、小さい方が凹レンズ、大きい方が凸レンズで構成される模様。
参考ページ:ZEISS双眼ルーペの販売代理店のページ

以上の情報から、設計すべき光学系のイメージを図示すると…
lesson5_image.png
すっかりおなじみ?の拙いイメージ図:ガリレアン方式

また、テキストによると、実使用のレーザー光は「波長:1053nm」ですが、試験する(設計?実験?)のは「波長:632.8nm」なので、2波長で収差補正を行う必要ありとのこと。ただし、これら波長は同時に使用するわけではないので、波長ごとにレンズを動かすことを考慮しても良いとも書かれています。
実使用の条件で統一すれば良い気もしますが、これも練習のためなのでしょう、ココは大人しく従います。

また、ガリレアン双眼ルーペのイメージ検索で見かけた図では、凸レンズにはダブレットを用いているものを多く見かけました。ルーペは可視光域で使用するため、色収差の補正のためにダブレットにしているのでしょう。(もちろんレッスン2で学んだように球面収差もダブレットの方が1桁良くなります)今回は、単波長のレーザーを想定しているので、色収差の補正は不要となり、そのぶん設計的には楽になるのかな、と思います。

以上のように、与えられた条件からだいたいの設計イメージは出来ました。
ZEMAXの操作にも少し慣れて来たので、今回はテキストを進める前に、自分でできる所までトライしてみます。



初期条件の入力

まず、上記の拙いイメージ図をZEMAXに入力してみることにします。

入力ビーム径が100mmで出力径が20mmなので,上図イメージ図のちょうど逆です。これまでのレッスンと同様に、一般設定(アパーチャーサイズ)、LDEへの入力、波長の設定を行なっていきます。

20130805201454.png
一般設定で、ビーム径を100mmに

20130805201435.png
硝材は最も一般的な「BK7」にして、凸レンズ大と、凹レンズ小を適当に入力、レンズ間距離はとりあえず100mmで。

20130805201446.png
レイアウト図を見ながら、LDEのパラメータを調整して見た目だけでもそれっぽく仕上げる

さて、これで初期の形状はなんとなく準備ができた気がします。
あと、波長はどうしようか、と思ったもののとりあえず2波長入力してみます。

20130805201842.png
条件にでてきた2つの波長をマイクロメーターで入力

20130805201833.png
すると、ここでZEMAXに叱られる

どうもこの可視光線領域外の長波「1053nm」が「BK7」の分散の式の範囲外だ!と注意されてしまいます。うーん、硝材を変えるか?と一瞬思いましたが、まずは「632.6nm」のみでいいか!と作戦変更。

と、ここで長波側の波長をナノメートルで入力していることに気が付きました…さすがに3桁オーダー間違えると 1mm を超えてくるので、もはや光ではありません。(ちなみに、ウィキペディアによると「1mmまでは光」だそうです)

20130805204110.png
これで、叱られなくなりました

私が入力ミスしていただけようです。先が思いやられますね…

そして、最適化するべきパラメータは、
 ・各レンズの曲率
 ・レンズ間の距離(ただし、250mm以内)
 ・どこかの1面を非球面に
 ・2波長でそれぞれ最適化(ただし、レンズの位置で調整すること)

と、盛りだくさんです。そして、この次はどうしよう…と早くも立ち往生です。これまでのレッスンでは、「IMA面にできるだけ精度良くフォーカスさせる」ための最適化をしてきました。しかし、今回はコリメート光をコリメート光にするというテーマです。これではこれまで使ってきたデフォルトメリットファンクションは使えません。(たぶん)

メリットファンクションのオペランドに「コリメート光にする」のに都合の良いオペランドがあるのでしょうか。また、今回学ぶマルチコンフィギュレーションとは、いったい何なのでしょう。

「このあたり理解すればもう少し進めるかも」と考えたので、ひとまずZEMAXへの入力はここまでで、次回はマニュアルとにらめっこしながら次のステップへの糸口を探りたいと思います。


posted by ひよこデザイナ at 21:17 | Comment(0) | TrackBack(0) | ZEMAXで「だれでもできるレンズ設計」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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