さて、今日は、以前からキチンと理解出来ていなかった「物体側NA」「像側NA」「角倍率」「光学的不変量」といった内容について学習していきます。それなりのボリュームになりそうなので、1回ではまとまらないかもしれません。
物体側NAと像側NA
これらの概念は下図からなんとなく理解できるものの、物体側と像側にそれぞれNA、つまり実効F値が存在している、というのがいまいちピンと来ません。
メレスグリオ社のページより
具体的に言うと「像側F2.0に対し、像側でF8.0という場合」など、「F値=光学系の明るさ」といった感覚を持っていたために(これが悪いんでしょうけど)、像側・物体側F値(NA)ってどう捉えたら良いのだろう?と感じていました。
→いろいろ調べているうちにレンズ屋さんの光学サロンの過去ログで、こんな記述を見かけました。確かに物体側F値ってあまり見かけない気がします。
有限物体の場合、特に物体側では、実効Fナンバーという言葉は使わない慣例です…
ともあれ、まずは「NA」の基本からおさらいしておきましょう。
NA(Numeric aperture:開口数)
開口数NAは、以下の式で算出でき、F値との関係式もシンプルなものです。関連する式も載せておきます。NA = N sin(θ)
実効F値 = 1 / (2 x NA) (実効F値 = F x (倍率M + 1) )
N sinθ = N' sinsθ' (通常、物体側は「'」なし、像側には「'」をつけて表現)
角倍率 = 像側NA / 物体側NA
これらを踏まえ、単純な光学系を元に詳細を追ってみましょう。
簡単な光学系で確認
構成は、2枚の貼りあわせレンズ(ダブレット)1個と、レンズの物体側に瞳を設置します。光線は物体側NAで規定しました。
レイアウト図
Object Space NA(物体側NA) = 0.055 つまり F値=9相当
物体高さは、0mmと、10mm
波長は基本のF, d, C の3波長
今回のテーマの本質ではない箇所は適当に設定し、レンズの曲率を変数にして、デフォルトメリットファンクションで最適化しました。
LDEデータ
3Dレイアウト図
最適化したとはいえ、像高が高い場所での結像が悪く、MF値は 11 もありますが、今はこれで良しとして、このシステムのデータを見て行きましょう。
システムデータ記載の各パラメータ
システムデータを表示させるといろいろな値が記載されています。これらをピックアップしながら詳細を確認していきます。
システムデータ
F値だけでもいろいろあります。頭が痛くなってきますね…
・Image Space F/# (像側F値):2.49
・Paraxial Working F/#(近軸実効F値) : 2.6
・Working F/#(実効F値) : 2.45
・Image Space NA : 0.186 (=> 換算 像側F値: 2.7)
・Object Space NA : 0.055 (=> 換算 物体側F値: 9.1)
・Angular Magnification(角倍率) : 0.208
それぞれ微妙に値が違うのでどのように算出されているのかマニュアルで確認していきます。
Image Space F/# (像側F値)
マニュアルを確認したところ、以下のように記載されています。「無限共役比での近軸入射瞳径と近軸焦点距離の比」
む、難しいですね、いきなり。
システムデータに記載の値からすると、
Effective Focal Length / Entrance Pupil Diameter
で計算すると、おおよそ算出されるようです。
まず「無限共役比」がよくわからなかったので調べた結果、わかりやすかったサイトから引用してまとめておきます。
以下、中央精機株式会社のサイトより一部を引用
無限遠にない、有限位置にある物体からの光を、光学系を通して別のある1点に集光するようなデザインを指します。
2.アフォーカル系デザイン(Afocal Design)
無限遠からの光(「平行光」、あるいは「コリメート光」と呼びます)を所定の倍率を持った光学系により、異なるサイズの平行光として出射するデザインを指します。
3.無限共役比デザイン(Infinite Conjugate Design)
単位共役比とアフォーカル系の2つのデザインがミックスした内容で、無限遠にある物体からの光を1点に集光するようなデザインを指します。また可逆的に、有限位置にある物体からの光を無限遠(平行光)に変換するような光学系もこのデザインになります。
つまり「無限共役比での近軸入射瞳径と近軸焦点距離の比」とは、実効F値ではなく、無限共役比における近軸のF値ということでしょうか。少し分かったような気もします。
また、さらに逸れてしまいますが、これを調べていた時に、こんなのも見かけました。
こういったノウハウ(大げさ?)は光学設計する際に大いに役立つのでしょう。
無限共役比での、形状の関数としてみた単レンズの収差について
(メレスグリオ社のサイトより)
こういったことが理解できていれば、ZEMAXでレンズの初期形状を入力する際に、この場合は物体側のみ曲面にして像側は平面で…なんて、対応できるのでしょう。
ちなみに、「無限共役比」ついでに、カメラレンズの話をしておくと、
一般的には「写真撮影用レンズのF値(ナンバー)は無限共役比のF値」で記載されています。この表示方法は標準レンズではあまり気(問題)になりませんが、実はマクロレンズ(ニコンではマイクロレンズ)で、等倍近辺で使用する際には、記載の開放F値と実効F値とで異なることになるために注意が必要です。
例えば、一般的なF2.8のマクロレンズで、等倍(倍率 = 1)で使用する場合、
実効F値 = F(2.8) x (M + 1) = 2.8 x 2 = 5.6
となり、開放に設定していても、光学的には「F5.6」になっているわけです。(もちろん絞りは開放のままで)
例えば、こんなページを見つけました。安原製作所の超マクロレンズ「NANOHA」のページに、この計算式に基づいた「倍率と開放F値の関係」について書かれています。
倍率が大きい場合、実効F値が大きく(暗く)なる、というは感覚的に覚えておいた方が良さそうです。
非常に長くなりましたが、この像側F値は光学システムに関係なく「無限共役比」で記載されている、いわばカメラレンズの公称F値のようなもの、といった所でしょうか。
Paraxial Working F/#
Paraxial Working F/# (近軸の実効F値)は、サインではなくタンジェントで計算してある、とマニュアルにあります。(屈折率n', 角度θ'ともに像側)
1 / (2n'・tanθ')
このパラメータは「近軸」とあるので、主面を平面として捉えて、tan (タンジェント)で計算しているもののようです。
Working F/#
Working F/# (実効F値)は、サインで計算され、Paraxial(近軸)の文字が抜けている通り、実光線で計算されています。(屈折率n, 角度θともに像側)
1 / (2n'・sinθ')
そして、こちらは主面を球面として捉えて計算しているのでしょう。
さらにマニュアルによると、実光線で計算していることもあり、「Image Space F/#」より 一般的に使える・役立つ(useful)値らしいです。この値を主に参照すれば良いってことでしょうか?記憶の隅っこにとどめておきます。
Image Space NA
こちらはマニュアルをみても公式通り「N sinθ」で計算されていると書かれています。主波長での近軸の周辺光線で計算されてる、とのこと。
Object Space NA
上記同様に計算は「N' sinθ'」で、物体面からの近軸の周辺光線の角度で計算されている、とのこと。
Angular Magnification(角倍率)
角倍率は、マニュアルによると「近軸の像側と物体側の主光線の角度の比」と記載されています。その角度は近軸の入・出射瞳位置で測定、とのこと。
しかし、これらシステムデータに記載の数値では下記の式が成り立ちません。
像側NA/物体側NA=角倍率
おおよそですが、この光学系は物体側:100mm、像側:30mmとして、おおよそ1/3の倍率になるだろう、予測して入力してあります。
像高10mmの結像がよくありませんが、レイアウト図から像側の像高を読み取れると、約-2.7となっています。
また、システムデータに記載の物体側と像側のNAの比では、
0.055 / 0.186 = 0.296
と、おおよそ1/3の倍率になります。
倍率は物体側と像側のNAの比で表現できるはずなのですが、少しズレが生じています。
像の倍率、NAの比、角倍率、がほぼ一致するものと思っていたのですが、すこし予想が外れました。
各パラメータの計算方法のせいなのかもしれません。
次回は「光学的不変量」にも触れながらもう少し考えてみます。