一眼レフのファインダー(接眼)光学系
設計練習&光学系のお勉強として、趣味でもあるカメラのファインダー部の光学系の設計に取り組んでみました。
が、考えが甘かったようで、適当にパラメータを振って最適化を試みましたが、あっさりと行き詰まりギブアップ。
今の私のレベルでは複数枚のレンズの設計は厳しい、と思い知らされたので、ファインダー設計は諦め、しばらくは基礎に取り組むことにします。
設計しようと試みた接眼光学系
ファインダーの設計はレベルUPしてから再挑戦するとして、今回はファインダー周りで学んだ内容をまとめておきます。
ファインダー光学系の基本構成(AF用光学系やセンサーなど除く)
まずは、基本的な部品構成から。
・フォーカシングスクリーン
・情報表示用の液晶パネル
・コンデンサーレンズ
・正立光学系としてペンタ(ダハ)プリズム(or ミラー)
・接眼光学系として数枚のレンズ
ファインダー光学系の基本構成
要求される仕様によって、プリズムがミラーだったり、コンデンサーレンズがなかったり…とバリエーションはありますが、大まかな構成はこの通りです。
ペンタダハプリズム
このプリズムの主な働きは以下の2つです。
1)光路を曲げ、像を正立させる。
2)光路の距離を稼ぐ(→ファインダー倍率を上げる)
プリズムではなくミラー方式でも(1)は実現可能です。そのため、コスト・重量を優先したエントリークラスの一眼レフでは、ファインダー倍率を犠牲にミラー方式が採用されることが多いようです。
プリズムの正立光学系としての機能
上図ではプリズム内で、2回反射しているように見えますが、実際は「ダハ(Dach)面」(ルーフ面)が存在し、3回反射となります。
ダハ(ルーフ)面を持ったプリズムの例
(ZEMAXサンプルデータ Prism 「Leman Roof」より)
「ペンタプリズム」と呼ばれることが多いこのプリズムですが、正確に表現すると「ペンタダハプリズム」の方が良いかもしれません。「ダハ」を入れることで、ペンタゴナル(五角形形状)で、ダハ(ルーフ)面を持ったプリズムというのが伝わります。
ダハプリズムでの像の挙動については、NIKONの双眼鏡の正立プリズムについての説明ページにあるアニメーションがわかりやすいです。
上図に紹介した「Leman roof Prism」は、ZEMAX操作練習のため扱ったサンプルデータ(リンク先はその記事)で取り上げたデータです。この時は「ダハ(ルーフ)面」は、全く気に留めませんでしたが、像を正立させるために双眼鏡や一眼レフに使われている技術であることを、今になり知ることができました。
ちなみに、手元にある小倉敏布著の『写真レンズの基礎と発展』によると、このプリズムの精度と製法について興味深いことが書いてありました。1995年に発行された本に書かれている内容なのですが、恐ろしく高精度な話に驚かされます。
したがって、ダハ面の最終研磨には「水貼り」と呼ばれる、他の面とは異なる特殊な方法が採られる。…(中略)…
面白いことに、ガラスブロックに、ダハ面を貼り付けるのには何の接着剤も要らない。…(中略)…水をつけて両者を押しつけるだけで、十分に強い力で接合される。水が乾くと、研磨中の圧力などでははがれない。
これは光学的接着(Optical contact)と呼ばれる。(カッコ内の角度換算値を追記しています)
光路の距離を稼ぐ
高校物理でも「見かけの深さ」として習うらしい(全く覚えていませんでしたが…)内容のようですが、光路の距離については意外にもややこしいので注意が必要です。
一般的に、近軸光学では「厚さdの平行平面板(屈折率N)と、厚さd/Nの空気厚は等価」と考えることができます。
例)N=1.5 d=30mm に相当する空気厚みは 20mm
リコーのページよりペンタプリズムについての説明を引用します。ペンタプリズムはミラーに比べ、ファインダースクリーンの画像をファインダーに導く光路を長く取ることができます。
と、先の理屈通りです。
ZEMAXで、空気とガラス(BK7)での焦点までの距離の変化を確認してみます。
f:50mm 理想レンズ 空気
焦点距離 50mmでしっかりと結像しています。空気のかわりに、屈折率1.5のBK7を挿入してみると…
f:50mm 理想レンズ後に、屈折率1.5のBK7を50mm
結像までの距離が不足しました。つまりガラスで埋めることで、距離を長く取る必要あり、または、レンズを短い焦点距離のレンズにできる、ということです。試しに距離を長く取ってみます。
BK7を挿入した場合、約76mm (50mm x 屈折率)の距離が必要
f:50mm 理想レンズ後に、屈折率1.5のBK7 約76mm
以上からも、先の平行平面板の空気換算距離の内容が正しいことが確認できました。
「50mm 空気層(N:1)」 = 「76mm BK7(50 x 1.5)」
このように限られたスペースの場合、光路にガラスを多用することで「焦点距離の短い光学系を組み合わせることが可能になる」と言えます。
この焦点距離の短い光学系というのが、次に説明するファインダー倍率に効いてきます。
もう少しファインダーについて続きますが、長くなり疲れてきたので、一旦ここで区切りましょう。
■補足:光学的距離(光路長)
光の進む速さから光学的な距離を算出する「光学的距離」もしくは「光路長」という概念が存在します。
同じ物理距離の場合、空気よりガラスの(屈折率が高い)方が光学的距離(光路長)は長くなり、その値は屈折率に比例します。
(光学的距離 or 光路長) = (距離)X(屈折率)
こちらは、上の空気換算距離と混同すると、ややこしくなるのですが、あまり幾何光学では使われることがないように思います。実際はどうなのでしょう?
そのうち出てくるかもしれない…程度に、頭の片隅に置いておくことにします。