2014年02月05日

カメラのファインダー光学系 その1

一眼レフのファインダー(接眼)光学系

設計練習&光学系のお勉強として、趣味でもあるカメラのファインダー部の光学系の設計に取り組んでみました。
が、考えが甘かったようで、適当にパラメータを振って最適化を試みましたが、あっさりと行き詰まりギブアップ。
今の私のレベルでは複数枚のレンズの設計は厳しい、と思い知らされたので、ファインダー設計は諦め、しばらくは基礎に取り組むことにします。

ファインダー光学系2.png
設計しようと試みた接眼光学系

ファインダーの設計はレベルUPしてから再挑戦するとして、今回はファインダー周りで学んだ内容をまとめておきます。

ファインダー光学系の基本構成(AF用光学系やセンサーなど除く)

まずは、基本的な部品構成から。

・フォーカシングスクリーン
・情報表示用の液晶パネル
・コンデンサーレンズ
・正立光学系としてペンタ(ダハ)プリズム(or ミラー)
・接眼光学系として数枚のレンズ

ファインダー光学系.png
ファインダー光学系の基本構成

要求される仕様によって、プリズムがミラーだったり、コンデンサーレンズがなかったり…とバリエーションはありますが、大まかな構成はこの通りです。

ペンタダハプリズム

このプリズムの主な働きは以下の2つです。

 1)光路を曲げ、像を正立させる。
 2)光路の距離を稼ぐ(→ファインダー倍率を上げる)

プリズムではなくミラー方式でも(1)は実現可能です。そのため、コスト・重量を優先したエントリークラスの一眼レフでは、ファインダー倍率を犠牲にミラー方式が採用されることが多いようです。

プリズムの正立光学系としての機能

上図ではプリズム内で、2回反射しているように見えますが、実際は「ダハ(Dach)面」(ルーフ面)が存在し、3回反射となります。

20140204085741.png
ダハ(ルーフ)面を持ったプリズムの例
(ZEMAXサンプルデータ Prism 「Leman Roof」より)

「ペンタプリズム」と呼ばれることが多いこのプリズムですが、正確に表現すると「ペンタダハプリズム」の方が良いかもしれません。「ダハ」を入れることで、ペンタゴナル(五角形形状)で、ダハ(ルーフ)面を持ったプリズムというのが伝わります。

ダハプリズムでの像の挙動については、NIKONの双眼鏡の正立プリズムについての説明ページにあるアニメーションがわかりやすいです。

上図に紹介した「Leman roof Prism」は、ZEMAX操作練習のため扱ったサンプルデータ(リンク先はその記事)で取り上げたデータです。この時は「ダハ(ルーフ)面」は、全く気に留めませんでしたが、像を正立させるために双眼鏡や一眼レフに使われている技術であることを、今になり知ることができました。

ちなみに、手元にある小倉敏布著の『写真レンズの基礎と発展』によると、このプリズムの精度と製法について興味深いことが書いてありました。1995年に発行された本に書かれている内容なのですが、恐ろしく高精度な話に驚かされます。

通常のプリズムの角度精度は5分〜10分(0.08〜0.17度)でよいとされているが、ダハ面の角度精度は、少なくとも20秒以内(0.0055度)、時には数秒という高精度が要求される。
したがって、ダハ面の最終研磨には「水貼り」と呼ばれる、他の面とは異なる特殊な方法が採られる。…(中略)…
面白いことに、ガラスブロックに、ダハ面を貼り付けるのには何の接着剤も要らない。…(中略)…水をつけて両者を押しつけるだけで、十分に強い力で接合される。水が乾くと、研磨中の圧力などでははがれない。
これは光学的接着(Optical contact)と呼ばれる。(カッコ内の角度換算値を追記しています)


光路の距離を稼ぐ

高校物理でも「見かけの深さ」として習うらしい(全く覚えていませんでしたが…)内容のようですが、光路の距離については意外にもややこしいので注意が必要です。
一般的に、近軸光学では「厚さdの平行平面板(屈折率N)と、厚さd/Nの空気厚は等価」と考えることができます。

例)N=1.5 d=30mm に相当する空気厚みは 20mm

リコーのページよりペンタプリズムについての説明を引用します。
ペンタプリズムはミラーに比べ、ファインダースクリーンの画像をファインダーに導く光路を長く取ることができます。と、先の理屈通りです。

ZEMAXで、空気とガラス(BK7)での焦点までの距離の変化を確認してみます。

20140204141322.png
f:50mm 理想レンズ 空気

焦点距離 50mmでしっかりと結像しています。空気のかわりに、屈折率1.5のBK7を挿入してみると…

20140204141332.png
f:50mm 理想レンズ後に、屈折率1.5のBK7を50mm

結像までの距離が不足しました。つまりガラスで埋めることで、距離を長く取る必要あり、または、レンズを短い焦点距離のレンズにできる、ということです。試しに距離を長く取ってみます。

20140204141344.png
BK7を挿入した場合、約76mm (50mm x 屈折率)の距離が必要

20140204141352.png
f:50mm 理想レンズ後に、屈折率1.5のBK7 約76mm

以上からも、先の平行平面板の空気換算距離の内容が正しいことが確認できました。
「50mm 空気層(N:1)」 = 「76mm BK7(50 x 1.5)」

このように限られたスペースの場合、光路にガラスを多用することで「焦点距離の短い光学系を組み合わせることが可能になる」と言えます。
この焦点距離の短い光学系というのが、次に説明するファインダー倍率に効いてきます。

もう少しファインダーについて続きますが、長くなり疲れてきたので、一旦ここで区切りましょう。

■補足:光学的距離(光路長)
光の進む速さから光学的な距離を算出する「光学的距離」もしくは「光路長」という概念が存在します。
同じ物理距離の場合、空気よりガラスの(屈折率が高い)方が光学的距離(光路長)は長くなり、その値は屈折率に比例します。

(光学的距離 or 光路長) = (距離)X(屈折率)

こちらは、上の空気換算距離と混同すると、ややこしくなるのですが、あまり幾何光学では使われることがないように思います。実際はどうなのでしょう?
そのうち出てくるかもしれない…程度に、頭の片隅に置いておくことにします。


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2014年02月18日

カメラのファインダー光学系 その2

ファインダー倍率とその焦点距離

公称のファインダー倍率とは「焦点距離50mmのレンズで、無限遠にフォーカスした時」が基準になっています。

一眼レフ(レンズ交換式)カメラのように、対物レンズ(交換レンズのことです)として様々な焦点距離のレンズを使用する場合、得られる像のサイズは当然対物レンズ(交換レンズ)に依存します。これはズームレンズでズーム(テレ側に)すると、ファインダーの像が大きくなる、ということからも経験的に理解できると思います。

得られる像の倍率は、対物レンズ(撮影レンズ)に依存するものの、接眼系の倍率を表す指標もいるよね、ということで定義されているのが、先に述べた「ファインダー倍率」です。

ファインダー倍率.png
ファインダー倍率の基準は50mmのレンズ、無限遠フォーカス時

パネルサイズによらず(画角によらず)、APS-Cサイズだろうが、マイクロフォーサーズだろうが、焦点距離50mmのレンズの無限遠を基準に、その比率を計算します。

センサーサイズが異なるカメラで「ファインダー倍率」の数値を横並びに比較してはいけないと言われるのはこの「画角(センサーサイズ)に依らず、50mmが基準」のためです。

例えば、様々なファインダー倍率をフルサイズ機(35mm換算)相当に計算すると、注意が必要なのが分かります。

・APS-C(フルサイズの2/3):1倍 → フルサイズ0.67倍相当
・マイクロフォーサーズ(フルサイズの1/2):1.15倍 → フルサイズ0.58倍相当

また、望遠鏡や双眼鏡では倍率は以下のように求めますが、これと同じ考え方がカメラにも適用できます。カメラの場合は、50mmのレンズでのファインダー倍率を1とする。というのが加わります。

(望遠鏡の倍率) = (対物レンズの焦点距離) / (接眼レンズ(アイピース)の焦点距離)
(ファインダー倍率) = (標準レンズ 50mm) / (接眼レンズ(ファインダー)の焦点距離)

ここから、ファインダー(接眼光学系)の焦点距離が計算できます

(ファインダー光学系の焦点距離) = (標準レンズ焦点距離 50mm) / (ファインダー倍率)

ニコンの双眼鏡のページに、いろいろな解説図があり、これが非常に参考になります。光学的には、カメラにも当てはまる部分が多いです。

pic_001.jpg
ニコンの双眼鏡の「拡大の原理」より引用

例えば、上図では、「対物レンズ=交換レンズ」「実像A=フォーカシングスクリーン」「接眼レンズ=ファインダー」と、捉えることができます。

ファインダーの明るさ

ここまでの内容から、ファインダー光学系はファインダー倍率によってその焦点距離が決定することが分かりました。
また、ファインダーのような接眼光学系では、有効径サイズを大きくしても、結局人間の瞳にケラれるため、光学系の有効径を大きくしてもあまり意味はありません。人間の瞳径のMAX(φ6〜7)が、最大絞り径となります。先ほど紹介したニコンのページには、ひとみ径は2〜7mmと書かれています。

pic_004.jpg
ニコン双眼鏡の「ひとみ径」のページより引用

そう考えると、レンズなど光学系でできることは、「人間の瞳径に対して十分な口径でレンズを設計すること」、「スクリーン面での散乱を抑えること」くらいになります。(界面での反射率・透過率ももちろんですが、ここでは触れません)
この後者に大きく関わってくるのが、「フォーカシングスクリーン(ピントグラス)の散乱特性」や、「コンデンサーレンズやフレネルレンズなどによる散乱光の集光」です。

フォーカシングスクリーンの散乱

ファインダー像は明るいほど理想的です。しかし、ピントの山を見やすくするために、スクリーン面には散乱するような材質(形状の物)を使用するのが一般的です。

この「明るさ」と「ピントの山」については、相反する特性があります。
明るくするためには、できるだけ無駄な光を発生させない方がよい(散乱させない)ことは下記図からも簡単にわかります。

screen.png
散乱による光のロスのイメージ図

しかし、これまでの学習内容から、実際のファインダー光学系の有効F値は8程度ということが分かりました。(f50mm φ6mm瞳孔径の場合)

散乱させないスクリーンの場合、F1.4などの明るい交換レンズでも、結局はF8より画角の小さい光線しか目には到達しないことを意味します。

screen2.png
画角の大きい光線がケラれる様子

このようにF1.4で撮影する際にF8の光線で確認していたら、被写界深度が深くなってしまい、ピントの山がわかりにくくなることは容易に想像できます。

これを解決するために、マット面(すりガラス状の散乱面)がフォーカシングスクリーンに使用されるわけです。散乱面で様々な角度の光線を平均化(一緒くたに分散させて)することで、「ピントの山」がわかりやすいように工夫されているのです。
もちろん、この相反する「明るさ」と「フォーカシング性能」のバランスを取るべく、各社いろいろな拡散板を試作しては、あーだこーだと議論し、技術が進化してきた、していくことでしょう。


ファインダーの視野率

これは文字通り、「パネルサイズ VS フォーカシングスクリーンサイズ(ファインダーで見える範囲)」に相当するものです。

一見簡単に視野率100%が実現できそうですが、各部品の組み立てばらつきや精度により、100%を保証するのは困難と言われています。
手ぶれ補正がレンズ内ではなく、撮像素子を動かすタイプの場合は、ここに調整用の機能をもたせることで、視野率100%を実現することもできる、とか。
ともかく、視野率100%達成のためには、何かしらの調整機構が必要になる、ということのようです。

ソニーα900についての記事で参考になる情報があったので引用しておきましょう。(デジカメWatchより)

もちろんフォーカススクリーンには、ミノルタ時代からのよき資産であるスフェリカルアキュートマットが採用されている。また、視野率を100%確実に保証するため、視野枠をスライドさせイメージセンサーとの相対位置を微調整できる凝った機構も設けている(この機構はユーザーによる調整はできない)。

ここで「スフェリカルアキュートマット」と聞きなれないものが出てきました。調べた所、下図のようなものらしいです。

FM1AM_SONY.png
スーパースフェリカルアキュートマット SONYのページより引用

スフェリカル(spherical):球面の
アキュート(acute):鋭い・先のとがった
マット(matte):つや消し

図や名前からしても、微細な球面形状を持った(フライアイレンズのもっと細かいような)つや消しのスクリーンなのでしょう。
フォーカシングスクリーンひとつとっても、実に奥が深そうです。

以上で、ファインダー光学系について学習した内容をまとめるのは終了します。
次回は設計してみた内容について、記録しておこうと思います。

posted by ひよこデザイナ at 21:51 | Comment(2) | TrackBack(0) | ファインダー光学系 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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