瞳径を変更してみる
瞳径(STO面の開口サイズ)は6mmで最適化してきました。これは人間の目の瞳孔サイズを参考に設定しています。
明るい環境下を想定すると、瞳孔が2〜3mm程度まで閉じられるはずです。例として瞳径3mm、にすると像がどう変化するのかをスポットダイアグラムで確認してみました。
左:瞳径6mm 右:瞳径3mm のスポットダイアグラム
スケールを揃え忘れましたが、エアリーディスクをベースに確認すると、瞳径が小さい場合は、ほぼエアリーディスク内に収まっており、回折限界相当の性能を持っていると言えそうです。デフォーカスしている像高0が一番悪いかも、という感じですね。
人間の瞳孔径が実際どのような挙動をするのか、ちょっと調べてみたところ名古屋大学のサーバーにあった論文になかなか興味深いことが書いてありました。(リンクはPDFが開きます)
興味深かった実験を簡単に要約すると、紙、Kindle、iPad、それぞれで、暗い〜明るい環境下で、瞳孔径がどう変化するか、というもの。(下記、PDF論文より引用)
このような結果となった要因について,紙やKindle は反射型であるため,環境光が反射光として目に入るため,環境の照度が瞳孔径の大きさに直接的に影響するが,iPad は自発光型であるため,環境光に影響されず,紙やKindle のような大きな変化がなかったと考えることができる.
普段何の気なしにいろいろなものを「見て」いますが、「人間の目の働き」ということは、全く理解していないものだなぁ、と思い知らされます。
ディストーションと周辺光量比
話を元に戻します。ここまでの評価結果から、結像性能は中心が甘いものの、それなりに出ているように思えます。
視点を変え、結像性能以外の性能を確認してみましょう。
ディストーション
まずは、ディストーション。
ココにある「Grid Distortion」が感覚的にわかりやすい
ディストーション
MAXで-0.37%です。感覚的にもグリッド上に乗っているように見えるのでまずまずではないでしょうか。
セッティングを見てみると、アスペクト比とかいじれるようです。
より厳密にパネルの3:2のアスペクト比へ変更
セッティング画面で、フィールドを選択できるようなので、試みたところ…
フィールドを最も像高の高くした(コーナーの)場合
これはかなり悪い!と焦ったのですが、どうやらこれは指定したフィールド位置をセンターとするためのパラメータのようです。無駄にイメージサークルをはみ出しているだけなので、これは確認しなくても良さそうです。
(この下のイメージシミュレーションでも、フィールドを変更するとケラレてしまい、焦ってマニュアルを調べると、入力像のセンター位置をフィールド番号で指定するためのもの、と書かれてありました。)
周辺光量比
続いて、イメージシミュレーションを試してみました。この機能は結像性能やディストーション、周辺光量比など様々なパラメータを包括した結果が得られるとのことです。ここでは、特に周辺光量比が暗くなっていることが確認できました。
イメージサンプル
結像性能やディストーションはこれまでの評価結果通り、あまり気になりません。しかし、少し周辺が暗くなっているように感じます。よりわかりやすくするために、全白の画像サンプルを作成して再度シミュレーションしてみました。
全白画面
明らかに周辺が陰っているのが確認できます。
X軸 Y軸 照度の断面図
断面図(と呼ぶのかは知りませんが)からも周辺が暗くなっているのは明らかです。これはX軸Y軸上での断面なのでコーナーはもっと顕著なはずです。オフセットさせた位置での断面を切りたい気もしますが、このZEMAXの「Setting」では、できなさそうです。
コサイン4乗則
この周辺光量比の低下の原因として考えられるのが「コサイン4乗則」です。わかりやすいように、角度0の主光線と、Y方向のみの像高からの光線を表示してみます。
光軸上の主光線と軸外の主光線
瞳を通る光線の束が、この図からよくわかります
角度がついている場合は、瞳を通る直径サイズが「cosθ倍」になります。これは径サイズが下図のように変化するからです。
直径サイズが変化する
キヤノンのページより「コサイン4乗則」について説明を引用しておきます。
しかし傾斜角度が増す広角レンズでは、開口効率(軸上の入射瞳と軸外の入射瞳の面積比)を上げる設計を行うことによって周辺光量の低下を防いでいる。
今回の周辺光量比の低下の原因が本当にコサイン4乗則によるものなのか、確認してみます。確認方法は、絞りを変化させて、周辺光量比に変化があるかどうか、です。
というのも、「コサイン4乗則」による周辺光量比低下は、絞りを絞っても変わらない、ということが知られています。
カメラでは、絞り開放では周辺が暗くなるけど、絞れば改善される、というアレです。
今回は、レンズのサイズはだいたいZEMAX任せにしているので、レンズ外形でケラレていること(口径食)はないはずですなのが、これも演習です。
瞳径(アパーチャーサイズ)を「6mmから3mm」へ変化させて「Relative Illumination」を見た結果…
まったく変化がありませんでした。これをもって、周辺光量比の低下はコサイン4乗則によるものだろう、と判断しました。
では、この周辺光量比の低下を防ぐためには、どうすればよいのでしょう?
先ほどのキヤノンのページの説明によると、「開口効率」を上げれば良いらしい、ことが分かります。
「開口効率」とは何かといろいろ見ていると、株式会社レンズ設計支援さんのページにわかりやすい図があったので引用させてもらいましょう。
株式会社レンズ設計支援さんのページより
この図のS0の円とSθの潰れた円の面積比が開口効率に相当します。口径食が起こらないようにすることはもちろん、瞳に入射する角度θをできるだけ小さくすることで、開口効率を上げることができそうです。
コサイン4乗則の影響ってどれくらいあるのか?ということでコサイン4乗を計算してプロットしてみました。
入射角度θと、コサイン4乗のプロット
3°:99.4%
5°:98.5%
10°:94.1%
15°:87.1%
20°:78.0%
主光線の角度が10°以上では、明るさがガツンと低下していくことが分かります。
今回設計した結果も、主光線の角度が小さくなるようにパラメータを振ると、周辺光量比が改善できるのか?気になったので、試してみましょう。
適当にこんな感じに(ぱっと見そんなに変わりませんが…)
イメージシミュレーション結果
明るさの断面図(X軸)
ただし、この場合はディストーション(歪曲収差)があからさまに劣化しています。瞳側での角度を抑えるために、結像面(フォーカシングスクリーン)側で角度をつけるような光学系になったため、かなと思います。
以上で、カメラのファインダー光学系の設計練習は終わろうかと、思ったのですが、ふとフォーカシングスクリーンからの散乱光をノンシーケンシャルで追いかけると、どうなるのか気になりました。
気になったからには、その辺を次回試してみましょう。