2014年04月03日

カメラのファインダー光学系 その4

瞳径を変更してみる

瞳径(STO面の開口サイズ)は6mmで最適化してきました。これは人間の目の瞳孔サイズを参考に設定しています。
明るい環境下を想定すると、瞳孔が2〜3mm程度まで閉じられるはずです。例として瞳径3mm、にすると像がどう変化するのかをスポットダイアグラムで確認してみました。

20140214123852.png 20140219104136.png
左:瞳径6mm 右:瞳径3mm のスポットダイアグラム

スケールを揃え忘れましたが、エアリーディスクをベースに確認すると、瞳径が小さい場合は、ほぼエアリーディスク内に収まっており、回折限界相当の性能を持っていると言えそうです。デフォーカスしている像高0が一番悪いかも、という感じですね。

人間の瞳孔径が実際どのような挙動をするのか、ちょっと調べてみたところ名古屋大学のサーバーにあった論文になかなか興味深いことが書いてありました。(リンクはPDFが開きます)

興味深かった実験を簡単に要約すると、紙、Kindle、iPad、それぞれで、暗い〜明るい環境下で、瞳孔径がどう変化するか、というもの。(下記、PDF論文より引用)

紙とKindleの瞳孔径は,暗所では瞳孔径が6mm 程度の大きさとなり,明所になるほど,段階的に3mm程度まで小さくなった.iPad の視認時の瞳孔径は,暗所でも3mm 前後であり,照度が変化しても,紙やKindle に見られたような大きな変化は起きなかった.
このような結果となった要因について,紙やKindle は反射型であるため,環境光が反射光として目に入るため,環境の照度が瞳孔径の大きさに直接的に影響するが,iPad は自発光型であるため,環境光に影響されず,紙やKindle のような大きな変化がなかったと考えることができる.

普段何の気なしにいろいろなものを「見て」いますが、「人間の目の働き」ということは、全く理解していないものだなぁ、と思い知らされます。

ディストーションと周辺光量比

話を元に戻します。ここまでの評価結果から、結像性能は中心が甘いものの、それなりに出ているように思えます。
視点を変え、結像性能以外の性能を確認してみましょう。

ディストーション

まずは、ディストーション。

grid_distortion.png
ココにある「Grid Distortion」が感覚的にわかりやすい

20140214124008.png
ディストーション

MAXで-0.37%です。感覚的にもグリッド上に乗っているように見えるのでまずまずではないでしょうか。
セッティングを見てみると、アスペクト比とかいじれるようです。

20140331161444.png
より厳密にパネルの3:2のアスペクト比へ変更

セッティング画面で、フィールドを選択できるようなので、試みたところ…

20140331162145.png
フィールドを最も像高の高くした(コーナーの)場合

これはかなり悪い!と焦ったのですが、どうやらこれは指定したフィールド位置をセンターとするためのパラメータのようです。無駄にイメージサークルをはみ出しているだけなので、これは確認しなくても良さそうです。
(この下のイメージシミュレーションでも、フィールドを変更するとケラレてしまい、焦ってマニュアルを調べると、入力像のセンター位置をフィールド番号で指定するためのもの、と書かれてありました。)

周辺光量比

続いて、イメージシミュレーションを試してみました。この機能は結像性能やディストーション、周辺光量比など様々なパラメータを包括した結果が得られるとのことです。ここでは、特に周辺光量比が暗くなっていることが確認できました。

20140219105534.png
イメージサンプル

結像性能やディストーションはこれまでの評価結果通り、あまり気になりません。しかし、少し周辺が暗くなっているように感じます。よりわかりやすくするために、全白の画像サンプルを作成して再度シミュレーションしてみました。

20140219105422.png
全白画面

明らかに周辺が陰っているのが確認できます。

20140219104146.png 20140219104139.png
X軸 Y軸 照度の断面図

断面図(と呼ぶのかは知りませんが)からも周辺が暗くなっているのは明らかです。これはX軸Y軸上での断面なのでコーナーはもっと顕著なはずです。オフセットさせた位置での断面を切りたい気もしますが、このZEMAXの「Setting」では、できなさそうです。

コサイン4乗則

この周辺光量比の低下の原因として考えられるのが「コサイン4乗則」です。わかりやすいように、角度0の主光線と、Y方向のみの像高からの光線を表示してみます。

20140219113021.png
光軸上の主光線と軸外の主光線

20140219112802.png
瞳を通る光線の束が、この図からよくわかります

角度がついている場合は、瞳を通る直径サイズが「cosθ倍」になります。これは径サイズが下図のように変化するからです。

20140219114006.png
直径サイズが変化する

キヤノンのページより「コサイン4乗則」について説明を引用しておきます。

画角が広くなってくると、口径食がまったくないレンズでも、周辺部の光量は画面中心よりも少なくなる。画面周辺部の像は、光軸に対しある傾斜角度をもった入射光線束によってつくられるが、その明るさは傾斜角のコサインの4乗に比例して低下する。これは物理学の法則からくるもので避けることはできない。
しかし傾斜角度が増す広角レンズでは、開口効率(軸上の入射瞳と軸外の入射瞳の面積比)を上げる設計を行うことによって周辺光量の低下を防いでいる。

今回の周辺光量比の低下の原因が本当にコサイン4乗則によるものなのか、確認してみます。確認方法は、絞りを変化させて、周辺光量比に変化があるかどうか、です。
というのも、「コサイン4乗則」による周辺光量比低下は、絞りを絞っても変わらない、ということが知られています。

カメラでは、絞り開放では周辺が暗くなるけど、絞れば改善される、というアレです。

今回は、レンズのサイズはだいたいZEMAX任せにしているので、レンズ外形でケラレていること(口径食)はないはずですなのが、これも演習です。

瞳径(アパーチャーサイズ)を「6mmから3mm」へ変化させて「Relative Illumination」を見た結果…
まったく変化がありませんでした。これをもって、周辺光量比の低下はコサイン4乗則によるものだろう、と判断しました。

では、この周辺光量比の低下を防ぐためには、どうすればよいのでしょう?
先ほどのキヤノンのページの説明によると、「開口効率」を上げれば良いらしい、ことが分かります。
「開口効率」とは何かといろいろ見ていると、株式会社レンズ設計支援さんのページにわかりやすい図があったので引用させてもらいましょう。

kaikoukouritu.PNG
株式会社レンズ設計支援さんのページより

この図のS0の円とSθの潰れた円の面積比が開口効率に相当します。口径食が起こらないようにすることはもちろん、瞳に入射する角度θをできるだけ小さくすることで、開口効率を上げることができそうです。

コサイン4乗則の影響ってどれくらいあるのか?ということでコサイン4乗を計算してプロットしてみました。

cos_4.png
入射角度θと、コサイン4乗のプロット

3°:99.4%
5°:98.5%
10°:94.1%
15°:87.1%
20°:78.0%

主光線の角度が10°以上では、明るさがガツンと低下していくことが分かります。

今回設計した結果も、主光線の角度が小さくなるようにパラメータを振ると、周辺光量比が改善できるのか?気になったので、試してみましょう。

20140401163940.png
適当にこんな感じに(ぱっと見そんなに変わりませんが…)

20140401164049.png
イメージシミュレーション結果

20140401164114.png
明るさの断面図(X軸)

ただし、この場合はディストーション(歪曲収差)があからさまに劣化しています。瞳側での角度を抑えるために、結像面(フォーカシングスクリーン)側で角度をつけるような光学系になったため、かなと思います。

以上で、カメラのファインダー光学系の設計練習は終わろうかと、思ったのですが、ふとフォーカシングスクリーンからの散乱光をノンシーケンシャルで追いかけると、どうなるのか気になりました。
気になったからには、その辺を次回試してみましょう。


posted by ひよこデザイナ at 21:17 | Comment(1) | TrackBack(0) | ファインダー光学系 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2014年04月08日

カメラのファインダー光学系 その5

ノンシーケンシャルモードへのデータ変換

まずシーケンシャルで作成したレンズデータをノンシーケンシャル用に変換するところから始めます。
といっても、操作は簡単。ZEMAXのツール内のメニューから簡単に変換できます。

ZEMAXサポートのKnowledgeBaseに、変換の方法が載っているので、これを参照しながら進めてみましょう。

リンク先は英語でかかれているので、簡単に手順を要約しておきます。

1)サーフェス#1の手前にダミーサーフェスを挿入する

20140402123405.png
「Insert」キーで挿入

このダミーサーフェスがなくても、問題なさそうな気もするのですが、試しにダミーサーフェスを挿入せず操作すると、下図のようなエラーが出てきました。

20140403160140.png
エラーがかえってきてちょっとビックリ

2)ダミーサーフェスをSTO面に指定

20140402123359.png
STO面へ指定

3)NSCへの変換を選択

20140402141727.png
ツールの一番下の下の方から

4)変換するサーフェス#を指定

サーフェス#指定と同時に、シーケンシャル+ノンシーケンシャルグループにするか、ファイルをノンシーケンシャルモードへ遷移するかを、チェックボックスより選択します。

20140402123752.png
サーフェス#の指定とチェックボックスのチェック

今回は、そのままノンシーケンシャルでの光線追跡を行うつもりなので、ノンシーケンシャルモードへ遷移させました。

20140402123839.png
簡単に変換完了

以上の操作で、選択した範囲のレンズデータがノンシーケンシャル用の記述に書き換えられます。

さらに、ノンシーケンシャルでの光線追跡用に、ディテクターや光源、アパーチャーなどを適宜挿入してデータを完成させます。

光源は、フォーカシングスクリーンへ平行光を照射し、スクリーン面はランバートの完全拡散としました。

ランバート拡散については、過去記事を参照。数ヶ月前に学習した内容ですが、結構忘れているものです…

20140403161116.png
レイアウト図

完全拡散にしたためでしょうか、100本の光線では瞳まで到達するのは1本あるか、ないか、です。
フォーカシングスクリーン面(拡散面)では、1本の入射に対して10本の拡散光線を飛ばすようにしています。

20140403161334.png
Scatter Fraction が1で、Number Of Rays が10本

レイアウト図では、1000本相当の散乱光線が飛び交っているので、そのうちの1本だけが到達する、となると、効率が悪いなぁ、という印象を受けます。
でも、落ち着いて考えてみると、散乱光なんてそんなもののような気もします。

ノンシーケンシャルでの光線追跡結果

ノンシーケンシャルでは、フォーカシングスクリーンからの光をトレースしてみましたが、STO面で照度分布を評価できるものなのでしょうか。この辺は良くわからなかったため、STO面近傍に適当な理想レンズを挿入して人間の目をモデリングしました。そして、目で結像した像をディテクターで表示させるようにした、つもりです。

20140402140531.png
網膜上の像に相当

20140402140558.png
照度の断面分布

ガタガタしたばらつき具合からすると、光線本数が少ない感はあるものの、シーケンシャルでのコサイン4乗則での周辺光量比の低下と同様に像高の高い箇所での照度の低下が確認できます。ぱっと見の印象はそんなに悪いものでもないですね。

以上、試しにノンシーケンシャルでフォーカシングスクリーン側から光線追跡をやってみましたが、正直これだけだと、あまり意味がなかったかなぁ、と感じました。(もっと上手くやる方法はあるかもしれませんが)
シーケンシャルでの Relative Illumination で確認した様に、STO面を通る光線がフォーカシングスクリーンでどのような分布を持つか、の評価の方で良い気がします。

しいて言えば、対物レンズ系(撮影レンズ)の瞳を通ってきた光線をフォーカシングスクリーンに当てて散乱させて…とすると、もう少し意味がでてくるかな、と思います。今回のように平行光(やその他にも適当な光線の角度を試してみました)では、意味がないかなぁという感触でした。光学シミュレーションってのはやっぱり難しいですねぇ。

以上、「ファインダー光学系」というテーマで、長々と引っ張りましたがそろそろ本テーマは終わりにしましょう。

posted by ひよこデザイナ at 22:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | ファインダー光学系 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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