メガネレンズの設計
自分が使っているメガネのレンズ設計をしてみましょう。
設計するレンズの条件は
・片側非球面レンズ
・屈折率1.74 (ネット上の情報によるとアッベ数33)
・パワー「-9D」
よくよく調べてみると片側非球面とはいえ、表面(メガネの像側)にもゆるいR(ベースカーブと言うらしい)が付いているようです。
それらの情報からそれっぽくモデリングした結果、下図のようになりました。
とりあえずモデリングした状態
絞りは、レンズの凹面に目の瞳径相当の7mmの開口を与えてあります。
しかし、実際の眼球(絞り位置)はキョロキョロと動くため、下図のようにレンズへの入射光の位置が変わるという点がモデリングできていません。
東海光学株式会社のWEBサイトより引用
そこで、眼球の角膜と網膜の中間点付近(上図で光軸と交差している位置のイメージ)に相当する位置に、開口6mmのストップ面(絞り)を設置することにしました。
(ちなみに、人間の目の瞳孔径は2-8mm程度の間で変化するらしい)
モデリングし直した後のレイアウト図
平行光を絞り(STO面)めがけて、0,5,15°の角度で入射させ、その光線が焦点距離11mm(「-9D」相当)になるように最適化してあります。
非球面の形状は、以前のレッスンで学んだ偶数次の非球面レンズ(Even Asphere、2次、4次の係数まで使用)で最適化しました。
スポットダイアグラム図
画角の大きい位置では、倍率色収差が確認できます。
アッベ数と色収差
メガネレンズでは、アッベ数が40程度あれば、色収差がわかりにくいと言われているらしいです。このプラレンズはアッベ数「33」です。先のスポットダイアグラムからもわかるように、画角が大きな箇所では、色収差がどうしても大きくなります。
以上で、おおよそメガネレンズの設計は終了です。実際にはファインチューニングが必要でしょうが、ここまでとしておきます。
イメージシミュレーション
しかし、これだけでは面白くないので、イメージシミュレーションなるものを試してみました。ビットマップイメージを入力としてして、この光学系を通じて、結像面での像の見え方をシミュレーションするものです。
各画角ごとに確認できるので、画角ごとの像の見え方を比較してみましょう。正面(0度)、角度がついた状態(5度、15度)での絵(写真)の見え方をシミュレートしていることになっているはずです。
左:画角0度 右:画角5度
左:画角15度 右:画角15度の左上部分の拡大
画角が大きい箇所での(倍率)色収差や、ディストーションが気になる様子が確認できました。
球面レンズと非球面レンズの比較
さらに、メガネレンズでしばしば話題になる「球面レンズ」と「非球面レンズ」についての性能比較をしてみます。
見え方の差
HOYAのメガネレンズのページに片側非球面と球面レンズの性能を比較したイメージ図がありました。
HOYAのサイトより引用
ここでの比較条件では
球面:31%
非球面:64%
非球面レンズのほうが倍くらいのエリアでシャープに見えるというものです。今回設計したデータはどうなっているのでしょう。球面レンズでも設計してみて比較してみます。
詳細の比較
違いが分かりやすいように、画角を25°まで広げて、それぞれ最適化しなおしました。
まずは、スポットダイアグラム。画角が大きくなればなるほど非球面のほうが性能がよくなることがわかります。
左:球面レンズ 右:非球面レンズ
(以下比較図のスケールは一致させています)
像面湾曲とディストーションを表示させてみても、画角が大きい場所での性能の差は一目瞭然です。
左:球面レンズ 右:非球面レンズ
いろいろな評価結果を表示させていると、ディストーションについては感覚的に理解しやすいプロットを見つけました。
左:球面レンズ 右:非球面レンズ
また、MTFをみても、画角の大きい場所では非球面の方が性能が良く、特にサジタル面での性能に明らかな差があります。(タンジェンシャルの差はそれほどでもない)
左:球面レンズ 右:非球面レンズ
MTFでは、逆に画角の小さい箇所では球面レンズのほうが性能が良いことも確認できます。
メガネ用のレンズとして「一概に非球面の方が良いわけではない」と言われることが、ここからも垣間見えます。
レンズのコバ厚
強度の近眼のメガネユーザーが気にするパラメーターである「レンズのコバの厚み」も比較しておきます。
今回の設計データでは□52のレンズを想定して、半径26とZEMAXに入力してあります。
左:球面レンズ 右:非球面レンズ
球面:6.35 mm
非球面:6.86 mm
と、その差は約0.5mmでした。確かに非球面のほうが薄いですが今回のケースでは大差ないようです。薄くしたい場合は、レンズ径を小さく(フレームの幅を小さく)したほうがよっぽどコバ厚は薄くなることでしょう。
以上、身近な光学系であるメガネレンズについて考えてみました。ベースカーブや、絞りの位置はざっくりとしたものですが、おおよその雰囲気はつかめたのかな、と感じています。
最も身近にある光学レンズでありながら、このように深く考えたことがなかったこともあり、新鮮な気持ちで楽しみながら学ぶことができました。
非球面のプラスチックレンズが金型成形により大量生産できるようになり、なんと数千円という安価な価格でメガネを作成できるようになりました。
さらに技術が進化すれば、3Dプリンタで、個人でメガネを作成できるようになるかもしれません。そんな時代になれば、ぜひとも自分で設計したメガネレンズを作ってみたいものです。あ、そうなればそのうちカメラレンズも作れるのかも…となると、ますますそれまでにスキルを磨いておかないといけません。
有用なページをありがとうございます。
この記事「メガネレンズの設計」でやられていることは何となく分かるのですが、いざ自分でZEMAXデータを作ってみようとすると上手くいきません。
もし、可能ならばここで作成されたZEMAXデータを頂けないでしょうか。
以上、よろしくお願いします。