平行平板(平面板)による収差とは
「これまでに平板による収差」というフレーズを耳にすることがありました。冷静に光学的に考えると板ガラスだろうが、収差が生じるのは理解できますが、物理的直感では平べったい板ガラスくらいなら…と思ってしまいそうなものです。
そこで、本日はこれをシミュレーションして平行平板(平面板)の持つ影響を頭に叩き込んでおきたいと思います。
今回のシミュレーション用レイアウト
凸のパワーを持った理想レンズ1枚の後ろに平面板を挿入していきます。まずは「0mm」、図の通り線で表現されていますが、何も入っていない状態から確認します。
レイファン もちろん収差は皆無
では、1mmの厚みを持ったBK7を一枚挿入してみます。
LDE 結像面はMarginal Rayで設定(キャプチャは0mmのままですが)
レイアウト図
レイアウト図からも像高の高い所の収差が大きそうですね。
レイファン
像高0では球面収差のみ、それ以外の位置では像面湾曲なども生じていそうです。
像面湾曲とディストーション
これら収差は、像高の自乗・三乗で効いてくるので当然大きくなります。
平板を挿入することで球面収差のみならず、様々な収差が生じることが確認できます。
平行平板(平面板)の厚みの影響
平板の厚みが、どのように収差に影響するか確認してみましょう。
1mm, 2mm, 3mm 像面湾曲とディストーション
1mm, 2mm, 3mm 像高0のスポットダイアグラム
比較したかったのにスケールを合わせ忘れていましたが、スポットダイアグラム径に着目してみると、収差が厚みに比例している様子が伺えます。
試しに平行平板(平面板)を薄くすることで、おおよそ回折限界まで近づくことも確認できました。
薄い板0.2mm
ここで、「そういえば顕微鏡のカバーガラスって薄かったなぁ」と思い出しました。
カバーガラスについて調べてみたところ、標準厚さは「0.17mm」です。薄いですね。そして対物レンズにはこの厚み分の収差も考慮されて設計されている、とのこと。(参考ページ:NIKONの顕微鏡のページ)
薄い板ガラスとはいえ、光学的には無視できないことがよーく分かりました。
ちなみに、厚みには大きく影響しますが、位置は全く影響しません。結像面の直前だろうが、結像面から離れた位置(今回では理想レンズ近傍)だろうが同じ結果(収差)になります。
平行平板(平面板)による収差はここまでですが、この操作をしていてZEMAXで新たな発見がありました。
性能評価の最適像面
上記シミュレーションの像面位置は「Marginal Ray Height」で、近軸の像面位置をIMA面に設定していました。
「Marginal Ray Height」
どうやら最良像面は、 Tools → Quick Focus (ショートカットキーは、Shift + Ctrl + Q ) で簡単に設定できるようで(「Marginal Ray Height」も簡単ですが)、これらの間で微妙に像面位置が異なってきます。
「Quick Focus」のメニュー
どのパラメータを重視するかの選択
像面位置が微妙に異なる
光学系は同じですが、像面位置が異なるので、もちろん収差量も異なってきます。分かりやすいのでスポットダイアグラムで比較してみましょう。
左:Marginal Ray Height(近軸像面) 右:Quick Focus (スポット径の最良)
像面位置は、像高が0のみの場合は大きな差はありませんが、画角を増やした場合に変化がでてきます。
例えば、「Marginal Ray Height」は、初期設定(Pupil Zone:0)のままでは近軸光線のみなので、画角を増やしても像面位置は変化しません。
対してクイックフォーカスの場合は、全体でのバランスをとるため変化が見られます。つまり像面としては、こちらの方がより現実的と言えそうです。
このように性能の評価面が変わると、その面での性能は変わってしまいます。つまり性能評価面は、性能評価に大きな影響を与えることになるわけですが、これまで、あまり意識していませんでした…
今後はこの辺りにも注意を払わないといけませんね。