2014年10月16日

色彩工学 その1.5

前回、色は波長で決まるということを学びました。続いて等色関数の学習内容をまとめるつもりでしたが、本題に入る前に最近知った。興味深い技術などを紹介しておきます。
まずは、Qualcomm社の「Mirasol」という技術です。

Qualcomm社の「Mirasol」

Qualcomm社のHPにアップロードされていた技術資料から私が理解できた範囲で簡単に説明すると、この「Mirasol」は反射型のMEMS表示デバイスで、反射面に設けられた「微小なエアギャップ」(光キャビティ・光共振空洞)を制御することで、反射光の波長をコントロールするものです。
それは、石鹸の泡の表面や蝶や孔雀の羽が虹色に見えるものと同様の原理、と説明されています。

Mirasol_1.png
Qualcomm社のPDF資料より

原理的には、黒表示「Collapsed State(上図の右側)」は、光を吸収するのではなく波長を不可視なUVへシフトさせ、黒以外「Open State(同図の左側)」では、波長を所望の色へとシフトさせ反射光を得る、というものです。

ただし、MEMSの制御のみで波長を自在に操って色を制御できるわけではなく、各色(RGB)それぞれのピクセルが存在しています。もちろん各色のピクセルでは微小の空気層のピッチが異なるのでしょう。(図と原理からの推測)
そして、表面にはカラーフィルターを用いて、より色を正確なものへと変換しているようです。

Mirasol_2_color.png
Qualcomm社のPDF資料より

この原理からすると、本当はカラーフィルターなしで、MEMSで作る空気層をナノ単位で制御するだけで色を作り出したかったはずです。
この技術の目指す所は、各色用のピクセルを用意せず、1つのピクセルをMEMS制御だけでフルカラーを作り出す、というものでしょう。こういったナノ制御で色を生み出すという発想はしたことがなかったので、非常に感心させられました。

少しですが、気になった点は、黒は吸収せずに、不可視光(UV)にシフトさせるという点です。
デバイスにとっては熱にならず良いかもしれません。人間の目にはどうなんでしょう。少し心配になりましたが、冷静に考えるとUVカットフィルタがついているものと思われます。なかったら、直射日光下での黒画面を見続けるのはちょっと怖いですけど。(想定しにくい状況ですが)

詳細はこちらの White Paper(PDF) でどうぞ。(英語なので全部は読んでませんが…)

ここまで調べた時点で、日本語の紹介ページを発見しました。2010年の記事ということは発表は結構古いんですね。全く知りませんでした。
(この記事では「黒は反射しない」と書いてありますが、White Paperには、不可視のUV光へシフトさせる、とあるので少し語弊があるかもしれません。UV光をカットフィルタで吸収するのであれば反射しない、という表現も正しいかもしれませんが)

それにしても、波長をナノテクでコントロールするなんて、なんとも未来っぽくてワクワクします。
ついでに、Qualcommがシャープと共同出資した会社でやっているMEMSディスプレイも紹介しておきましょう。

Qualcomm X SHARP のMEMSディスプレイ

Qualcomm社のMEMSといえば、シャープのIGZO技術と手を組んだこちらのディスプレイの方がメジャーだと思います。こちらも数年前には発表され、2015年には製品化されるようです。

141006-a-image11.png
<MEMS-IGZOディスプレイの構造>(シャープのHPより)

こちらの原理はRGBの順次点灯式のLEDバックライトを、メカニカルシャッターの開閉でON/OFFして、それをシーケンシャルにミックスしてフルカラーを作り出す、というものです。
MEMSの代表格であるDLP(プロジェクター)に似た方式なので、新鮮さでいえば、さきほどの「Miraso」の方がだんぜん上ですね。


量子ドット

「Mirasol」の技術に触発され、これからの色はナノ制御で作られるのが主流になるに違いない!と思ってWEBをさまよって見つけたのが「量子ドット」。こんなものが実現していたとは…恐るべしナノテクノロジー。

こちらも簡単に説明すると、量子ドットとは、量子力学に従う独特な光学特性を持つナノスケールの半導体結晶のことで、2-10nmの直径で、10-50個ほどの原子で構成されたものを指します。

QD_image.png
こんな感じかなと思いきや

33619_3.gif
こんな感じのようです(イラストの引用元はこちら

詳細な説明はウィキペディアに任せますが、なんとこの量子ドットを用いたディスプレイ(液晶テレビやタブレット)が2013年には発売されているとのこと。
日経テクノロジー(2014年10月中は、有料会員でなくても読めます)で詳細に紹介されていました。

これらディスプレイにこの量子ドットがどういう使われ方をしているかというと、青色LEDの光を量子ドットで赤色・緑色の発光スペクトルに変換して、RGBの3波長にピークを持つ光源とするというものです。

光源の特性に依存せず、量子ドットでスペクトルのピークがコントロールできるため、色再現性がよくなり、さらには、カラーフィルターでの不要光カットも少なくできるため、効率がUPするなどの特徴があるようです。

img_quantumdot_02.jpg
日本カンタムデザイン株式会社のHPより

蛍光体と違うのは、量子ドットの結晶の大きさで波長を自在に制御できることにあります。この写真でも量子ドットが大きくなるにつれ、長波が得られているのが分かります。
量子ドットの励起光としては、短波の方が発光効率高い(吸光度が高い)ので、実用化されている液晶のバックライト光源には、一番波長の短い青色LEDが使用されているようです。

日経テクノロジーの記事が非常にわかりやすいので、いろいろ引用して紹介したいのですが、有料記事のようなので引用は遠慮しておきます。

以上のように、色、つまり波長をナノテクで制御するという、壮大な技術は今後ますます活躍することでしょう。
閑話休題、次回こそは色のお勉強では欠かせないCIEの等色実験〜CIE表色系、XYZ表色系についてまとめようと思います。


posted by ひよこデザイナ at 20:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | 色彩工学 / 色の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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