2013年07月26日

MTFについてのお勉強1

今日は、テキストを進める代わりに、前回のレッスン4で性能確認時に出てきた「MTF」について掘り下げてみます。カメラの交換レンズの性能指標としても使用される「MTF」、この機にしっかり学んで理解を深めたいと思います。
また、ZEMAXも使用しながら、ZEMAXの操作についても学んでいきましょう。

MTF:Modulation Transfer Function って一体何?

まずは、簡単に概念から行きます。いろいろな所で解説されていますが、今日はコンデジでお世話になっているキヤノンのサイトから見ていきましょう。


MTFとは、Modulation Transfer Function の略で、コントラスト再現比によるレンズ性能評価方法です。(中略)
レンズも同様に「光学信号の伝達系」と考えた場合、光学系の周波数特性が測定できれば、光学信号が忠実に伝達されているかどうかを知ることができます。レンズでいう周波数とは、1mm幅の中に正弦的に濃度の変化するパターンが何本あるかという意味で特に「空間周波数」と呼ばれ、電気系のHzに対し、「○○line per mm」あるいは「○○本/mm」と示されます。(キヤノンのHPから引用)

これまで私は「MTF」について、解像チャートのような(定規のものすごーい細かい目盛りのような)ものを用いていると思っていたのですが、上記説明にあるように「正弦的に濃度の変化するパターン」を数えるもの、とのこと。つまり「白と黒」のように矩形波的に変化するものではなく、「黒から白へ滑らかな濃淡」が正弦波的に並んでいるものを入力に使うということです。間違って説明しているWebページも見かけました。単位が「○○本/mm」なので、間違えやすいのだと思います。
MTF_image.png
矩形波的ではなく、正弦波的に濃度の変化するパターン
mtf.png
レンズ系を「光学信号の伝達系」とし、入力(物体)に対して出力(像)のコントラスト劣化を表現する

20130726095717.png
ZEMAXのMTF曲線図 (レッスン2で設計したダブレットのMTF曲線)

縦軸は「コントラスト再現比」と説明されているように、入力と出力のコントラストの比です。例えば、コントラスト100がレンズを通して、80になれば、「0.8」となるわけです。

また、どんなに理想的(無収差)なレンズでも、高周波になるにつれ(右にいくにつれ)コントラストが低下します。これは「回折の影響」によるものです。
ZEMAXでは、上図のように「回折限界」(性能の限界)を表示することも可能です。(黒いライン)

20130726095056.png
「Show Diffraction Limit(回折限界)」で、レンズ系の性能の限界が確認できる

無収差レンズでも、なぜ性能の限界が生じるのでしょうか。これを説明するために出てくるのが「エアリーディスク」です。

Diffraction_disc_calculated.png
Wikipediaより「エアリーディスク
(中心の大きな円がエアリーディスク)

回折の影響で起こるエアリーディスクの半径は回折の理論により、次式で求められます。

(エアリーディスク半径)= 1.22 x (有効F値) x (光の波長)

無収差であろうと、点がレンズを通ることで、得られる像は点ではなくなり、エアリーディスク径まで拡がるわけです。
レンズの分解能を考えるにあたって、異なる位置の2点の分解について考えた時、一方の点のエアリーディスクの中心と他方の点の回折パターンの最初の暗円環と(中心の円の外周部分)が重なるときを限界と定義しています。これを、レイリーの判断基準といいます。
つまり、上式が2点の最大分解距離にも相当することになります。
mtf_diffraction_limit.png
レイリーの判断基準 限界分解能のイメージ図(点像の一つをわかりやすく着色)

このあたり内容については、上記ウィキペディアのリンク先や、メレスグリオ社のHPの説明が分かりやすいと思います。
MTFの基本事項について掘り下げるのはこれくらいにして、実際のカメラレンズのMTFを見て行きましょう。


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2013年07月29日

MTFについてのお勉強2

MTFの例:一眼レフ用交換レンズのMTFとその見方

私はキヤノンのコンデジとニコンの一眼レフ(DXフォーマット:APS-Cパネルのこと)を愛用しています。(ホントはフルサイズのものが欲しいんですけど、懐事情が…)

一眼レフで実際に使っている2本の、標準ズームレンズと標準画角の単焦点レンズの2本のMTFを元に、MTF曲線を確認してみましょう。(以下のMTF・レンズ構成図は、ニコンイメージングのHPより)

まずは標準画角の単焦点レンズ「AF-S DX 35mm F1.8

35.gif  35_lens.gif
MTF と レンズ構成図

続いて、標準ズームレンズ「AF-S DX 18-105mm F3.5-5.6 G ED VR

18-105_W.gif 18-105_T.gif
ワイド端-MTF テレ端-MTF (ズームの場合は両端のMTFを表記)

18-105_lens.gif
レンズ構成

ともに、これまで見たZEMAXのMTFとは少し表示方法が異なります。MTF曲線についてニコンのHPでは、下記のように説明されています。


ここに掲載のMTF曲線は、空間周波数を特定の値(10本/mmと30本/mm)に固定した状態で、横軸に像高(画面中心からの距離mm)をとり、縦軸にコントラストの値(最大値1)を示したものです。各レンズに対応するMTF曲線は、絞り開放の場合に対応し、空間周波数10本/mmに対応する曲線を赤線で、空間周波数30本/mmに対応する曲線を青線で示しています。
軸外像高では非点収差の影響でS方向(サジタル方向:放射方向)とM方向(メリジオナル方向:同心円方向)で、コントラストの変化が異なってきます。一般に、10本/mm の曲線が1に近いほどコントラストがよくヌケの良いレンズになり、30本/mmの数値が高いほど高解像なレンズといえます。(ニコンの「MTFとは」より抜粋)

だいたいどこのカメラメーカーもこれと同じように、横軸を像高にとって、10本と30本の周波数における開放F値のMTF曲線を公開しています。
この図のうち、実際の写真の画質に大きく関係するのは低周波の「10本/mm」と言われています。キヤノンのMTFの解説でも次のように書かれています。
10本/mmが、0.8以上あれば優秀なレンズ、0.6以上あれば満足できる画質が得られると言われています。

レッスン4で出てきたZEMAXのMTF曲線の横軸は周波数でした。この写真レンズのMTFとは雰囲気が異なります。

20130723124705.jpg
レッスン4ででてきたMTFの図

レンズの用途(要求される仕様)によって、レンズの性能評価方法が変わってくるように、MTFでもそれぞれに適した結果を表示することが必要になってきます。
もちろんZEMAXでもカメラレンズのように、横軸に画角(像高)をプロットできるMTF図がありました。同じように「10本と30本の周波数」固定で像高に対するMTFを表示してみましょう。
Analysis => MTF => FFT MTF vs. Field から、

20130726104551.png
レッスン2のダブレットレンズのMTFをカメラレンズ用の表現にアレンジしたもの

話をニコンのMTF曲線、横軸の「像高」に戻します。
ニコンのDXフォーマット(APS-C)の撮像素子サイズは「23.6 x 15.7」です。最も像高が高い(画角が大きい)のはもちろん4箇所のコーナーで、この像高は三平方の定理から「約14.2mm」と算出できます。
(※カメラレンズにおける、像高とは「撮像素子面でのレンズ中心からの距離のこと」です。)

APS-C向けのレンズでは、この像高までの性能を確保するように設計されているので、ニコンが公表しているMTFカーブの横軸は15までとなっているわけです。
同様に、フルサイズでの像高MAXは「21.6」なので、表記も「22-23」くらいまでになっています。

20130726111101.png
APS-C の撮像素子とその像高について

ここで、少しAPS-Cサイズのカメラの現実的な使い方を想定してみましょう。
例えば、フォーカスポイントによく使用される「3分割法」の1点では、意外にも像高は低く「4.7」です。これはレンズの最大像高と比較すると1/3(3分割してるので当然っちゃ当然)ですので、MTF曲線を見ても分かるように、レンズ性能的には余裕のある位置です。私の一眼レフのオートフォーカス(AF)センサー位置の最大像高は、せいぜい8mmくらい、でしょうか。
私のカメラの使用状況では、風景などパンフォーカス(全体にフォーカスを合わせること)時以外において、像高10mm以内をフォーカスポイントとしているのかな、と思います。

レンズの開発時には「像高○○までは□□の性能を維持すべし」なんて社内基準があったりするのかもしれません。

また、各メーカーが公表しているMTFカーブはレンズの開放F値のみというケースが多いのですが、通常F値を絞ればレンズ性能は向上します。

fig-mtf-curve.png
キャノンのMTF図 開放F値とF8での性能



各カメラメーカーのMTFを解説してあるページを見ると、だいたい横軸:像高の説明として「画面中心からの距離mm」という具合に書かれています。これは光学の知識がある人にとっては違和感はないでしょうが、光学を学んでいない一般ユーザーの観点からすると、分かりにくい表現だと思います。(自分の体験から)

デジタルカメラにおいて、ユーザーは「撮像素子」を目にすることも、意識することもまずありません。(フィルムカメラが主流の時代では少し異なっていたかもしれませんが)撮像素子を意識する必要がないわけですから、像高ってどこで測るの?背面についている液晶モニタで?それともファインダを覗いて見える像で?パソコンの画面で??…となってもおかしくないのでは?と思います。

代替案として、正規化すれば良いかも!(像高MAXの○%といった具合)と思いましたが、撮像素子サイズが変わってしまう(フルサイズ用のレンズをAPS-Cで使う、など)と、駄目なので応用がききません。結局良いアイデアがあるわけではないのですが、この例のように、設計性能を一般ユーザーにわかりやすく的確に伝えるというのは難しいものだなぁ、と考えさせられました。

MTFについて、もう少し続きます。


posted by ひよこデザイナ at 22:49 | Comment(0) | TrackBack(0) | 光学関連 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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