2014年01月20日

メガネのレンズについて

前回の続き(NA〜光学的不変量〜輝度不変則)のお勉強は、もう少しまとまってからアップロードするとして、今日は身近な光学系のメガネについて考えてみます。

格安?メガネの作成

つい先日、メガネを新調しました。私の視力は0.1未満の超ド近眼(最強度近眼)なので、レンズにはかなりの屈折力(パワー)が必要です。

a0002_011005.jpg

「JINS」というメガネ界のユニクロ的存在のお店で、初めてメガネを作ったのですが、屈折率1.74の片側非球面レンズが、なんと「5,980円」ぽっきり!でした。
セール中だったので、もっと安いフレームなら4千円での作成も可能でした。すごい時代?になったものです。

最強度の近眼の場合、メガネの作成は「○○円ぽっきり!」と書いてあっても、高屈折率のレンズが必要なために、追加料金が必要になることが通例でした。それが追加料金なしで高屈折率のレンズが選べるなんて、ちょっと感激ものです。
これも、「プラスチック成形による大量生産」&「メイドインチャイナ」による恩恵なのでしょう。

気になる実際のメガネは、レンズが在庫になかったためまだ手元にはありませんが、評判もそこまで悪くはないようです。

さて、前置きはこれくらいにして、メガネのレンズについて光学的な情報を整理してみましょう。

メガネレンズの度数(屈折力・パワー)

いわゆる目の悪い(遠くが見えない)近視の人は、自身の目の屈折力(パワー)が強すぎるため、網膜の手前に焦点が来ます。そこで下記図のようにメガネ(凹レンズ)で焦点位置をずらして、網膜上に焦点を合わせます。

glass_image.png
ウィキペディアより引用(SVGをpngへ変換)
Made by A. Baris Toprak MD. Vectorized by CryptWizard.

ここまでは、学校の理科で習う(幾何光学の)範囲なので、知っている人も多いでしょう。

度数を表すD(ディオプター)

メガネのレンズには屈折力を表す「度数」というものがつきものです。日常会話でも「最近目が悪くなって、メガネの度(数)が合ってないみたい」などと耳にすることもあります。
この度(数)、単位は「D:ディオプター」で表わし、「-3D」とか「-5D」などと表現します。

ディオプター(ディオプトリー)の定義は、「焦点距離(単位:m)で表したものの逆数」となり式で表現すると、

 D = 1 (m) / 焦点距離 (m)

つまり「-5D」を例に焦点距離を算出すると、

 「-5Dの焦点距離」= 1(m) / -5(D) = -0.2(m)

焦点距離が入射方向(たいていの図では左側)へ20cm (200mm)のレンズを意味します。焦点距離が負ということは、凹レンズです。

20140115110325.png
「-5D」のレンズ:近視用

20140115110312.png
「-10D」のレンズ:近視用

20140115110627.png
「+2D」のレンズ:遠視用

メガネの役割は「裸眼で見える位置に像を結像させる」というように表現することもできます。
例えば、強度の近眼である「-10D」の人の場合、無限遠(遠くの物)を10cm手前に結像させて、それを裸眼で見ている、ということです。ちょうど下図のようなイメージです。

glass_lens_image.png
近視用メガネレンズの働き

これからすると、メガネの度数がわかっていれば、裸眼で自分がどれくらいの距離までフォーカスが合わせられるかが計算できます。単純にレンズの焦点距離が裸眼のMAX焦点距離になります。

 -1D:約100cm
 -3D:約30cm
 -5D:約20cm
-10D:約10cm
-15D:約7cm

私は「-10D」近辺なので、約10cmまでしか見えないことになります。実際もたしかにその程度です…裸眼では読書すらかなり顔に近づけないとままなりません。

つまり、「-10D」で矯正した場合…
 ・遠くのもの(無限遠)が、10cm先
 ・数メートル先が、9cmくらい
 ・焦点距離と同じ10cm先が、焦点距離の半分の5cmの位置
を、裸眼でフォーカシングしていることになります。

つまり、私の肉眼では「5cm〜10cm以下」くらいしか調整していないのです。なんて小さな調整範囲なのでしょう!あらためて数値で確認すると悲しくなってしまいます…

気を取り直し、次回は実際にメガネレンズを設計してみましょう。


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2014年01月21日

メガネレンズの設計

メガネレンズの設計

自分が使っているメガネのレンズ設計をしてみましょう。

設計するレンズの条件は
 ・片側非球面レンズ
 ・屈折率1.74 (ネット上の情報によるとアッベ数33)
 ・パワー「-9D」

よくよく調べてみると片側非球面とはいえ、表面(メガネの像側)にもゆるいR(ベースカーブと言うらしい)が付いているようです。
それらの情報からそれっぽくモデリングした結果、下図のようになりました。

20140114104130.png
とりあえずモデリングした状態

絞りは、レンズの凹面に目の瞳径相当の7mmの開口を与えてあります。
しかし、実際の眼球(絞り位置)はキョロキョロと動くため、下図のようにレンズへの入射光の位置が変わるという点がモデリングできていません。

359570-img5.gif
東海光学株式会社のWEBサイトより引用

そこで、眼球の角膜と網膜の中間点付近(上図で光軸と交差している位置のイメージ)に相当する位置に、開口6mmのストップ面(絞り)を設置することにしました。
(ちなみに、人間の目の瞳孔径は2-8mm程度の間で変化するらしい)

20140115154024.png
モデリングし直した後のレイアウト図

平行光を絞り(STO面)めがけて、0,5,15°の角度で入射させ、その光線が焦点距離11mm(「-9D」相当)になるように最適化してあります。

非球面の形状は、以前のレッスンで学んだ偶数次の非球面レンズ(Even Asphere、2次、4次の係数まで使用)で最適化しました。

20140115154030.png
スポットダイアグラム図

画角の大きい位置では、倍率色収差が確認できます。

アッベ数と色収差

メガネレンズでは、アッベ数が40程度あれば、色収差がわかりにくいと言われているらしいです。このプラレンズはアッベ数「33」です。先のスポットダイアグラムからもわかるように、画角が大きな箇所では、色収差がどうしても大きくなります。

以上で、おおよそメガネレンズの設計は終了です。実際にはファインチューニングが必要でしょうが、ここまでとしておきます。


イメージシミュレーション

しかし、これだけでは面白くないので、イメージシミュレーションなるものを試してみました。ビットマップイメージを入力としてして、この光学系を通じて、結像面での像の見え方をシミュレーションするものです。
各画角ごとに確認できるので、画角ごとの像の見え方を比較してみましょう。正面(0度)、角度がついた状態(5度、15度)での絵(写真)の見え方をシミュレートしていることになっているはずです。

20140115155349.png 20140115155421.png
   左:画角0度      右:画角5度

20140115155449.png 20140115155515.png
   左:画角15度      右:画角15度の左上部分の拡大

画角が大きい箇所での(倍率)色収差や、ディストーションが気になる様子が確認できました。


球面レンズと非球面レンズの比較

さらに、メガネレンズでしばしば話題になる「球面レンズ」と「非球面レンズ」についての性能比較をしてみます。

見え方の差

HOYAのメガネレンズのページに片側非球面と球面レンズの性能を比較したイメージ図がありました。

g01_local01_05_nulux_kyumen.jpg g01_local01_05_nulux_hikyumen.jpg
HOYAのサイトより引用

ここでの比較条件では
  球面:31%
 非球面:64%
非球面レンズのほうが倍くらいのエリアでシャープに見えるというものです。今回設計したデータはどうなっているのでしょう。球面レンズでも設計してみて比較してみます。

詳細の比較

違いが分かりやすいように、画角を25°まで広げて、それぞれ最適化しなおしました。

まずは、スポットダイアグラム。画角が大きくなればなるほど非球面のほうが性能がよくなることがわかります。

20140117105028.png 20140117105025.png
左:球面レンズ    右:非球面レンズ
(以下比較図のスケールは一致させています)

像面湾曲とディストーションを表示させてみても、画角が大きい場所での性能の差は一目瞭然です。

20140117105715.png 20140117105712.png
左:球面レンズ    右:非球面レンズ

いろいろな評価結果を表示させていると、ディストーションについては感覚的に理解しやすいプロットを見つけました。

20140115211711.png 20140115211839.png
左:球面レンズ    右:非球面レンズ

また、MTFをみても、画角の大きい場所では非球面の方が性能が良く、特にサジタル面での性能に明らかな差があります。(タンジェンシャルの差はそれほどでもない)

20140117110407.png 20140117110409.png
左:球面レンズ    右:非球面レンズ

MTFでは、逆に画角の小さい箇所では球面レンズのほうが性能が良いことも確認できます。
メガネ用のレンズとして「一概に非球面の方が良いわけではない」と言われることが、ここからも垣間見えます。

レンズのコバ厚

強度の近眼のメガネユーザーが気にするパラメーターである「レンズのコバの厚み」も比較しておきます。
今回の設計データでは□52のレンズを想定して、半径26とZEMAXに入力してあります。

20140115210714.png 20140115210728.png
左:球面レンズ    右:非球面レンズ

 球面:6.35 mm
非球面:6.86 mm

と、その差は約0.5mmでした。確かに非球面のほうが薄いですが今回のケースでは大差ないようです。薄くしたい場合は、レンズ径を小さく(フレームの幅を小さく)したほうがよっぽどコバ厚は薄くなることでしょう。


以上、身近な光学系であるメガネレンズについて考えてみました。ベースカーブや、絞りの位置はざっくりとしたものですが、おおよその雰囲気はつかめたのかな、と感じています。
最も身近にある光学レンズでありながら、このように深く考えたことがなかったこともあり、新鮮な気持ちで楽しみながら学ぶことができました。

非球面のプラスチックレンズが金型成形により大量生産できるようになり、なんと数千円という安価な価格でメガネを作成できるようになりました。
さらに技術が進化すれば、3Dプリンタで、個人でメガネを作成できるようになるかもしれません。そんな時代になれば、ぜひとも自分で設計したメガネレンズを作ってみたいものです。あ、そうなればそのうちカメラレンズも作れるのかも…となると、ますますそれまでにスキルを磨いておかないといけません。

タグ:メガネ
posted by ひよこデザイナ at 00:00 | Comment(1) | TrackBack(0) | メガネレンズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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