2014年10月04日

色彩工学 その1

これまで主に幾何光学の話を取り扱ってきていますが、今日は気分を変えて色の話。色彩工学と呼ばれる分野の学習内容を整理したいと思います。

光、色とは?

光は電磁波の一種で、特に人間の目に見える光、つまり可視光線を指すことが多く、可視光とは380nm-780nmの電磁波を指します。

人間の目にみえないより短波である紫外線や、長波である赤外線も含めて「光」と呼ぶこともありますが、要はこの可視光周辺の電磁波のことです。
さすがに波長が10nm以下のx線や、電子レンジに使われるマイクロ波(波長:122mm)などは、さすがに光とは呼びません。

そして、色は波長で決まります。

605px-Linear_visible_spectrum.svg.png
ウィキペディアより波長と色(パブリックドメイン画像)

上記したとおり、光とは主には「人間の目」に見えるものを示すものです。そのために光の明るさを表す指標(輝度や照度)というものは、この人間の目を基準にしたものになっています。
これらは人間の目の感度に依存した尺度で表現するために、厳密な物理量ではなく「心理的な物理量」と表現されます。

そして、人間の目は、明るいと感じる度合いが波長によって異なります。(この現象を視感度と呼びます)

例えば、明るいところで青色の450nmの波長の1,000個の光子を目に受けた時に感じる光の強さは、緑色の555nmの波長の38個の光子を目に受けた時に感じる光の強さに等しくなり、同様に赤色の700nmの波長の1,000個の光子を目に受けた時に感じる光の強さは、緑色の555nmの波長の4個の光子を目に受けた時に感じる光の強さに等しくなる。
ウィキペディアより引用

引用元のウィキペディアに書かれている通り、光の明るさの指標にはこの「比視感度」(視感度と呼ぶことも多い)がかかっていることになります。

比視感度.png
明所視標準比視感度

先の引用元にも書かれていますが、人間は明所と暗所で網膜にある2種類のセンサー(明るい環境で機能する錐体(すいたい)細胞と、暗い環境で機能する桿体(かんたい)細胞)を使い分けており、そのセンサーの比視感度は異なる、とのことです。
(明所ピーク:555nm、暗所ピーク:507nm)

このように、光の単位にはこの比視感度がかかって「心理的」な物理量に変換されている、ということを理解するのは光を学ぶ上での一つのハードルかな、と感じます。

例えば、「光度エネルギー」といっても、物理的なエネルギー量を示すものではありません。
これにも比視感度がかかっているので、あくまでも人間の目に見える強さを基準にしたものになり、実際に網膜に吸収されるエネルギーとは一致しないのです。

光の明るさに関する表現では、常に人間工学の補正がかかっている、というのがミソですね。

分光スペクトル

光にはいろいろな波長成分があって、その波長で色が決まる、ということを学びました。
その光を厳密に表すのには、「分光スペクトル:波長ごとに強度を示すもの」のグラフが用いられます。

分光スペクトル図では、縦軸には強度(物理量)、横軸には波長をとり、各波長での強度分布を示します。
例えば、白色LEDと蛍光灯の例をあげます。

wLED_Fluorescent.png
白色LEDと蛍光灯の分光スペクトル図

上図のようにピーク強度を1として各波長の強度分布がプロットされたり、相対値ではなく強度の絶対値で図示されることもあります。

この白色LED(青線)は、ピーク強度が約480nm近傍ですので、この辺にピークを持つ青色LEDに、550nmあたりにピークを持つ黄色蛍光体で、白色にしていることが分かります。

一方、蛍光灯は放電で発生する紫外線を数種類の蛍光体で可視光に変換するものです。この例では青の線スペクトルを持つ蛍光体に緑〜黄〜赤の連続スペクトルを持つ蛍光体が使用されているといった具体です。

この物理量である強度を、明るさの指標(心理的な物理量)にするために、さきほどの比視感度を掛けてやります。

明るさ分布.png
比視感度を掛けて、心理的物理量に

この図は各波長での明るさの分布(強度ではなく心理的物理量)を意味します。発光強度にセンサー感度(人間の目の)を掛けた、という具合ですね。

そして、このグラフを積分して得られる面積が明るさを意味します。この場合では白色LEDの方が面積が広そうなので、LEDの方が明るそう、と分かるわけです。
実際には、計算して比較すべきですがこの分光スペクトルの元データがwebからの拾い物で、LEDのスペクトルデータが不完全(歯抜け)のため計算できませんでした。(グラフでは歯抜け箇所を線でつないで描画しています)

分光スペクトル(図)についてはここまでにして、次回は色のお勉強には欠かせないCIEの等色実験やXYZ等色関数
の話へと続きます。


posted by ひよこデザイナ at 18:14 | Comment(0) | TrackBack(0) | 色彩工学 / 色の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
2014年10月16日

色彩工学 その1.5

前回、色は波長で決まるということを学びました。続いて等色関数の学習内容をまとめるつもりでしたが、本題に入る前に最近知った。興味深い技術などを紹介しておきます。
まずは、Qualcomm社の「Mirasol」という技術です。

Qualcomm社の「Mirasol」

Qualcomm社のHPにアップロードされていた技術資料から私が理解できた範囲で簡単に説明すると、この「Mirasol」は反射型のMEMS表示デバイスで、反射面に設けられた「微小なエアギャップ」(光キャビティ・光共振空洞)を制御することで、反射光の波長をコントロールするものです。
それは、石鹸の泡の表面や蝶や孔雀の羽が虹色に見えるものと同様の原理、と説明されています。

Mirasol_1.png
Qualcomm社のPDF資料より

原理的には、黒表示「Collapsed State(上図の右側)」は、光を吸収するのではなく波長を不可視なUVへシフトさせ、黒以外「Open State(同図の左側)」では、波長を所望の色へとシフトさせ反射光を得る、というものです。

ただし、MEMSの制御のみで波長を自在に操って色を制御できるわけではなく、各色(RGB)それぞれのピクセルが存在しています。もちろん各色のピクセルでは微小の空気層のピッチが異なるのでしょう。(図と原理からの推測)
そして、表面にはカラーフィルターを用いて、より色を正確なものへと変換しているようです。

Mirasol_2_color.png
Qualcomm社のPDF資料より

この原理からすると、本当はカラーフィルターなしで、MEMSで作る空気層をナノ単位で制御するだけで色を作り出したかったはずです。
この技術の目指す所は、各色用のピクセルを用意せず、1つのピクセルをMEMS制御だけでフルカラーを作り出す、というものでしょう。こういったナノ制御で色を生み出すという発想はしたことがなかったので、非常に感心させられました。

少しですが、気になった点は、黒は吸収せずに、不可視光(UV)にシフトさせるという点です。
デバイスにとっては熱にならず良いかもしれません。人間の目にはどうなんでしょう。少し心配になりましたが、冷静に考えるとUVカットフィルタがついているものと思われます。なかったら、直射日光下での黒画面を見続けるのはちょっと怖いですけど。(想定しにくい状況ですが)

詳細はこちらの White Paper(PDF) でどうぞ。(英語なので全部は読んでませんが…)

ここまで調べた時点で、日本語の紹介ページを発見しました。2010年の記事ということは発表は結構古いんですね。全く知りませんでした。
(この記事では「黒は反射しない」と書いてありますが、White Paperには、不可視のUV光へシフトさせる、とあるので少し語弊があるかもしれません。UV光をカットフィルタで吸収するのであれば反射しない、という表現も正しいかもしれませんが)

それにしても、波長をナノテクでコントロールするなんて、なんとも未来っぽくてワクワクします。
ついでに、Qualcommがシャープと共同出資した会社でやっているMEMSディスプレイも紹介しておきましょう。

Qualcomm X SHARP のMEMSディスプレイ

Qualcomm社のMEMSといえば、シャープのIGZO技術と手を組んだこちらのディスプレイの方がメジャーだと思います。こちらも数年前には発表され、2015年には製品化されるようです。

141006-a-image11.png
<MEMS-IGZOディスプレイの構造>(シャープのHPより)

こちらの原理はRGBの順次点灯式のLEDバックライトを、メカニカルシャッターの開閉でON/OFFして、それをシーケンシャルにミックスしてフルカラーを作り出す、というものです。
MEMSの代表格であるDLP(プロジェクター)に似た方式なので、新鮮さでいえば、さきほどの「Miraso」の方がだんぜん上ですね。


量子ドット

「Mirasol」の技術に触発され、これからの色はナノ制御で作られるのが主流になるに違いない!と思ってWEBをさまよって見つけたのが「量子ドット」。こんなものが実現していたとは…恐るべしナノテクノロジー。

こちらも簡単に説明すると、量子ドットとは、量子力学に従う独特な光学特性を持つナノスケールの半導体結晶のことで、2-10nmの直径で、10-50個ほどの原子で構成されたものを指します。

QD_image.png
こんな感じかなと思いきや

33619_3.gif
こんな感じのようです(イラストの引用元はこちら

詳細な説明はウィキペディアに任せますが、なんとこの量子ドットを用いたディスプレイ(液晶テレビやタブレット)が2013年には発売されているとのこと。
日経テクノロジー(2014年10月中は、有料会員でなくても読めます)で詳細に紹介されていました。

これらディスプレイにこの量子ドットがどういう使われ方をしているかというと、青色LEDの光を量子ドットで赤色・緑色の発光スペクトルに変換して、RGBの3波長にピークを持つ光源とするというものです。

光源の特性に依存せず、量子ドットでスペクトルのピークがコントロールできるため、色再現性がよくなり、さらには、カラーフィルターでの不要光カットも少なくできるため、効率がUPするなどの特徴があるようです。

img_quantumdot_02.jpg
日本カンタムデザイン株式会社のHPより

蛍光体と違うのは、量子ドットの結晶の大きさで波長を自在に制御できることにあります。この写真でも量子ドットが大きくなるにつれ、長波が得られているのが分かります。
量子ドットの励起光としては、短波の方が発光効率高い(吸光度が高い)ので、実用化されている液晶のバックライト光源には、一番波長の短い青色LEDが使用されているようです。

日経テクノロジーの記事が非常にわかりやすいので、いろいろ引用して紹介したいのですが、有料記事のようなので引用は遠慮しておきます。

以上のように、色、つまり波長をナノテクで制御するという、壮大な技術は今後ますます活躍することでしょう。
閑話休題、次回こそは色のお勉強では欠かせないCIEの等色実験〜CIE表色系、XYZ表色系についてまとめようと思います。

posted by ひよこデザイナ at 20:21 | Comment(0) | TrackBack(0) | 色彩工学 / 色の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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