2014年10月22日

色彩工学 その3

これまで学んで来た内容の復習も兼ねて、より具体的な例をあげつつ、それぞれの数値の取り扱いについてまとめてみます。

分光スペクトルからXYZ表色系への変換

例として、「色彩工学 その1」で取り上げた、ある蛍光管の分光スペクトルから、この蛍光管の色度をCIE1931 xy色度図にプロットする、という作業をしてみましょう。

分光スペクトルをXYZ表色系に変換するのを数式で表現すると、積分になるのでややこしく感じますが、実際に計算する場合は、1nm〜数nmの各波長ごとにそれぞれを掛けて、それを足し合わせるだけなので、難しくはありません。エクセルなどの表計算ソフトを使えば簡単です。

table.png
分光スペクトルとXYZ等色関数を並べます

分光スペクトルは測定したデータ等を、等色関数は決まっているのでその値を計算した波長ごとに入力します。

等色関数のデータはこちら Colour & Vision Research laboratory and database というサイトにおいてあります。(CIE 1931 2-deg, XYZ CMFs)
(CMFs : Color Matching Functions = 等色関数 の略)

刺激値を計算するためには、各波長ごとに積を算出して、それを足し算するだけです。
慣れてきたら、SUMPRODUCT関数を使って、各積の和を算出するのも良いでしょう。

table2.png
ココとココが掛け算に

計算したすべての波長範囲を足しあわせて、3刺激値を算出します。
あとは、(X+Y+Z)の総和に対するX,Yの割合から(x,y)を計算します。

table3.png
得られた結果

xy色度を元に、色度図にプロットしてみます。(白丸が、この蛍光灯の色度)

color_CIE1931_xy.png

黒いカーブは黒体軌跡、そして数値は相関色温度です。この色度図から、この蛍光灯はだいだい4100K近傍の色温度であるということが分かります。

黒体軌跡の詳細はこちら(コニカミノルタのページ)

xy色度図、等色温度線と等偏差線 上にプロットしてみます。図は黒体奇跡近傍を拡大しています。
(これも、前回紹介した「colorAC」というアプリで作成)

color_temp_uv.png

このように分光スペクトルがあれば、xy色度が計算でき、さらにはおおよその色温度と偏差(delta_uv)がわかります。
より厳密に相関色温度とd_uvを算出したい場合は、下記のJIS規格にある算出方法を参照しましょう。

 JIS Z 8725-1999 光源の分布温度及び色温度・相関色温度の測定方法
  附属書2(参考) 相関色温度の計算方法

この内容を簡単に説明すると、XYZ刺激値を測定し、uv色度に変換。そのuv値を元に、テーブルを参照し対応する色温度、そしてd_uvを算出する、というものです。エクセルなどではテーブルを参照しながら計算させることになると思うので、それなりに大変になると思います。

実際の測定器であるコニカミノルタの色彩照度計CL-200Aでは、照度色度はもちろん、uv, 相関色温度も表示できます。
製品のWEBページに、JIS(日本工業規格)/ISO(国際標準化機構)が定義している計算式で色温度値の算出が可能です と、記載があるので、3刺激値を元に先ほどのJIS Z 8725 の手法で、相関色温度を算出しているものと思います。

以上、分光スペクトルから、xy色度図へのプロット(相関色温度の算出)を行いました。


ちなみに、この約4100Kの蛍光灯というは、所謂「白色〜昼光色」と呼ばれる物に相当するもので、少し黄色みのかかった白になります。

海外のWEBサイトから適当に拾ってきた分光スペクトルでしたが、なかなか実物に近かったようです。

AreaLux_24_8.jpg
4000Kの例(パナソニックのページより)


標準の色温度

先ほどの蛍光灯は4100Kで、白色に相当するものでした。一概に白色といっても、業界によって標準の色温度が異なります。

例えば、色彩工学においての標準はD65と呼ばれる、6500Kです。
その他には、

 sRGB規格: 6500K (PCモニターなど)
 出版・印刷のDTP: D50(5000K)
 アメリカの放送規格(NTSC): 6500K
 デジタルハイビジョンの国際規格(ITU-R BT.709): 6500K
 日本の放送規格(NTSC-J): 9300K

日本人は「青白い白(色温度の高い)」をキレイな白と認識する傾向があるようです。日本の放送規格NTSC-Jも、そのせいでかなり青白い色を標準にしています。

光(色)は人間の感度をもとにした心理的物理量で表現します。同じ人間とは言え、西洋人や東洋人でも感じ方には微妙な差があることでしょうし、好みも異なるのでしょう。

ちなみに、私は趣味で写真を撮るときのホワイトバランスは、色温度で設定しています。オートだと、少し青っぽく写るためです。真相は分かりませんが、これはメーカーがあえて日本人好みに調整しているのかもしれない、などと、思っています(笑


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2014年10月20日

色彩工学 その2

等色実験と等色関数

ここまでの学習内容で、色はイロイロな波長を混ぜてできることを学びました。

1931年 CIE(国際照明委員会:Commission internationale de l'eclairage(仏))が、色に関する有名な実験を行いました。「等色実験」と呼ばれるものです。

実験の内容としては、R,G,Bそれぞれの単色光をどのくらいの比率で混ぜあわせれば、各波長の色になるか?というもの。

等色実験_xyz02_l.jpg
DICカラーデザイン株式会社のページより

実験に用いられた単色光は下記の波長の通り。

R:700 nm  …目が感じることのできる長波側の限界値として
G:546.1 nm …水銀のスペクトルより
B:435.8 nm …水銀のスペクトルより

そして得られた結果がこちらの図になります。

3_3.gif
シャープ・アクオスの技術ページより


この混色の度合い(各波長に対する目の感度)のことを「三刺激値R,G,B」といい、この曲線のことを「等色関数」といいます。

この等色関数、見れば分かるように負の値をとっている箇所があります。これはどういうことかというと、ターゲットの色を混ぜるだけでは作れなかった色の範囲で、ターゲットの色側へ色を加算すること(これを負として表現)で、等色になるようにした、とのことです。

rgb_match.png
京都市立芸術大学のあるページより

等色実験の概念図。混合色が,与えられた任意の色 (たとえば純色) と同じ色に見えるように調整して混合比を求める。任意の色が青緑系の純色のときは,彩度が高すぎて混合色では再現できず,任意の色側に赤を足して (混合色から赤を引いて) はじめて同じ色になる。このように,色によっては RGB の混合比のどれかが負になることがある。


以上が有名な等色実験の内容です。
この実験から得られた「等色関数 / RGB表色系」は、目の感度を表しているようなものです。ですが、負の値をとっているというのが、ややこしく理解し難くなっています。

そこで、負の値をとらないように、改良されたのが「CIE XYZ 色空間 / XYZ 表色系」です。

XYZ 色空間 / XYZ 表色系 〜 xy色度図

XYZ表色系において、Xは赤の成分、Yは明るさ(輝度)を含む緑の成分、Zは青の成分を表します。
RGB等色関数から、XYZ等色関数(刺激値)へは、下記の数式で変換されます。

X = 2.7689R + 1.7517G + 1.1302B
Y = 1.0000R + 4.5907G + 0.0601B
Z = 0.0000R + 0.0565G + 4.4943B

そして、このXYZの刺激値は輝度情報を含むため、その数値自体(絶対値)では色を理解しにくいため、XYZそれぞれを全体(X+Y+Z)に対する割合として表現し、小文字のx,y,zで表します。(いわゆる正規化ですね)

x = X/(X+Y+Z)
y = Y/(Z+Y+Z)
z = Z/(X+Y+Z) = 1-x-y

CIE1931_XYZ表色系.png
CIE1931 XYZ表色系

ちなみに、このyは、明所比視感度(色彩工学 その1 で学んだヤツです)に一致するように定義されています。
そして、このXYZの3刺激値から、xyが算出でき、あの有名なxy色度図が描けます。

color.png

xy色度図

CIE表色系において「色」は、3次元の色空間で表示されるのですが、3次元では表示することが難しいため、2次元に投影して表示したものを使用しています。
この投影面を色度図と呼び、XYZ表色系からは「xy 色度図」が得られます。「xy色度図」は、「色」の位置関係を表した「色の地図」ともいえ、色再現の説明にも大変役立ちます。
(先のシャープのページより引用)

これが最もメジャーな色度図ではあると思いますが、実はこの色度図にも欠点があります。それは、等距離の2点間の色の違いが場所によって異なる、ということです。
この欠点について、アメリカ・コダック社のDavid Lewis MacAdam(日本語ではマクアダム)が、以下のような実験を行いました。

MacAdam(マクアダム)の実験概要

25ポイント(25色)において、2つの色サンプルを用いて、片方は基準カラーとして、もう片方が調整可能になっており、これを基準カラーと同じ色になるように色を調整してもらいました。その結果、すべての被験者において、以下に示す楕円内の範囲でばらつきが収まった、というものです。

この同じ色と判断されたエリアをCIE1931 XYZ表色系の xy色度図にプロットすると

color_MacAdam_original.png

MacAdamの楕円 25個

この丸(楕円)の範囲では人間は色に差を感じない、ということです。
楕円が小さいので、サイズを比較しやすいようにこの楕円を7倍に拡大してみます。

color_MacAdam.png

MacAdamの楕円 25個 x 7倍拡大

このように、CIE1931のxy色度図では、プロット上の距離の差と人間の感じる色差が一致しない、(特に緑色での差が大きい)という問題をMacAdamが指摘しました。

この点を改良すべく、1960年にCIEによって制定された(MacAdamが考えたものです)のが、CIE1960 UCS色度図(UCS:Uniform Chromaticity Scale)です。

CIE1960 UCS

CIE1931の欠点を解消すべく、xy色度座標(x, y)を変換することによって、人間の感じる色差にほぼ比例するような色度図(均等色度図: Uniform Chromaticity Scale)が作られました。
おおよそ、xy色度座標のy軸が1/2に圧縮されたような図で、CIE1960 UCS の uv色度図と呼ばれるものです。

color_CIE1960.png

CIE1960 UCS uv色度図

xyからの変換式は、下記の通り。

u = 4x / (-2x + 12y + 3)
v = 6y / (-2x + 12y + 3)

CIE1976 UCS

そして、さらに17年後に uv色度図の縦軸(v軸)を1.5倍して、全体がほぼ正三角形になるようにして、 さらに均等性を向上させたものが制定されました。これが CIE1976 UCS、通称 u'v'色度図です。

color_CIE1976.png

CIE1976 UCS u'v'色度図

u' = 4x / (-2x + 12y + 3) (= u)
v' = 9y / (-2x + 12y + 3) (= 1.5v)

未だに最もメジャーな色度図は、やはりCIE1931 xy色度図だと思います。しかし、プロットして色のズレ(色差)を確認するのであれば、u'v'色度図を利用する方が適していると言えるでしょう。

個人的な感覚では、通常はxy色度図を利用し、微妙な色のズレ・その量を意識すべき場合は、u'v'色度図を利用するのが良いと思います。uv色度図を積極的に利用すべきシーンは、うーん、ないのかもしれません。私には、想像できません。


色度図を描画するのに便利なソフト「ColorAC」

今回記載している色度図の描画にはこちらの「色度図作成ソフト ColorAC」を使用して作成しました。
かなり細かくカスタマイズができる大変便利なソフトで、資料に綺麗な色度図を挿入したいときにはもってこい!
フリーソフトだとは思えない完成度で、ありがたく使わせていただきました。(そういえば、PC上のプログラムもアプリと呼ぶことが増えてきましたが、フリーアプリって単語はあまり聞かないですね)

色度図を作成する機会がある人は、ぜひお試しあれ。

posted by ひよこデザイナ at 21:12 | Comment(0) | TrackBack(0) | 色彩工学 / 色の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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