分光スペクトルからXYZ表色系への変換
例として、「色彩工学 その1」で取り上げた、ある蛍光管の分光スペクトルから、この蛍光管の色度をCIE1931 xy色度図にプロットする、という作業をしてみましょう。
分光スペクトルをXYZ表色系に変換するのを数式で表現すると、積分になるのでややこしく感じますが、実際に計算する場合は、1nm〜数nmの各波長ごとにそれぞれを掛けて、それを足し合わせるだけなので、難しくはありません。エクセルなどの表計算ソフトを使えば簡単です。
分光スペクトルとXYZ等色関数を並べます
分光スペクトルは測定したデータ等を、等色関数は決まっているのでその値を計算した波長ごとに入力します。
等色関数のデータはこちら Colour & Vision Research laboratory and database というサイトにおいてあります。(CIE 1931 2-deg, XYZ CMFs)
(CMFs : Color Matching Functions = 等色関数 の略)
刺激値を計算するためには、各波長ごとに積を算出して、それを足し算するだけです。
慣れてきたら、SUMPRODUCT関数を使って、各積の和を算出するのも良いでしょう。
ココとココが掛け算に
計算したすべての波長範囲を足しあわせて、3刺激値を算出します。
あとは、(X+Y+Z)の総和に対するX,Yの割合から(x,y)を計算します。
得られた結果
xy色度を元に、色度図にプロットしてみます。(白丸が、この蛍光灯の色度)
黒いカーブは黒体軌跡、そして数値は相関色温度です。この色度図から、この蛍光灯はだいだい4100K近傍の色温度であるということが分かります。
黒体軌跡の詳細はこちら(コニカミノルタのページ)
xy色度図、等色温度線と等偏差線 上にプロットしてみます。図は黒体奇跡近傍を拡大しています。
(これも、前回紹介した「colorAC」というアプリで作成)
このように分光スペクトルがあれば、xy色度が計算でき、さらにはおおよその色温度と偏差(delta_uv)がわかります。
より厳密に相関色温度とd_uvを算出したい場合は、下記のJIS規格にある算出方法を参照しましょう。
JIS Z 8725-1999 光源の分布温度及び色温度・相関色温度の測定方法
附属書2(参考) 相関色温度の計算方法
この内容を簡単に説明すると、XYZ刺激値を測定し、uv色度に変換。そのuv値を元に、テーブルを参照し対応する色温度、そしてd_uvを算出する、というものです。エクセルなどではテーブルを参照しながら計算させることになると思うので、それなりに大変になると思います。
実際の測定器であるコニカミノルタの色彩照度計CL-200Aでは、照度色度はもちろん、uv, 相関色温度も表示できます。
製品のWEBページに、JIS(日本工業規格)/ISO(国際標準化機構)が定義している計算式で色温度値の算出が可能です
と、記載があるので、3刺激値を元に先ほどのJIS Z 8725 の手法で、相関色温度を算出しているものと思います。
以上、分光スペクトルから、xy色度図へのプロット(相関色温度の算出)を行いました。
ちなみに、この約4100Kの蛍光灯というは、所謂「白色〜昼光色」と呼ばれる物に相当するもので、少し黄色みのかかった白になります。
海外のWEBサイトから適当に拾ってきた分光スペクトルでしたが、なかなか実物に近かったようです。
4000Kの例(パナソニックのページより)
標準の色温度
先ほどの蛍光灯は4100Kで、白色に相当するものでした。一概に白色といっても、業界によって標準の色温度が異なります。
例えば、色彩工学においての標準はD65と呼ばれる、6500Kです。
その他には、
sRGB規格: 6500K (PCモニターなど)
出版・印刷のDTP: D50(5000K)
アメリカの放送規格(NTSC): 6500K
デジタルハイビジョンの国際規格(ITU-R BT.709): 6500K
日本の放送規格(NTSC-J): 9300K
日本人は「青白い白(色温度の高い)」をキレイな白と認識する傾向があるようです。日本の放送規格NTSC-Jも、そのせいでかなり青白い色を標準にしています。
光(色)は人間の感度をもとにした心理的物理量で表現します。同じ人間とは言え、西洋人や東洋人でも感じ方には微妙な差があることでしょうし、好みも異なるのでしょう。
ちなみに、私は趣味で写真を撮るときのホワイトバランスは、色温度で設定しています。オートだと、少し青っぽく写るためです。真相は分かりませんが、これはメーカーがあえて日本人好みに調整しているのかもしれない、などと、思っています(笑