球面収差
球面収差(像高0の収差図)を確認すると、3次まではそれなりに抑えられていますが、5次の収差がどうしても大きくなっています。
F4.0
ただ、同じ設計のまま(F4.0で最適化)した状態でF5.6に絞ると、ぐっと球面収差が改善します。
F5.6
F4.0の中心付近を切り出しているだけなので、当たり前といえば当たり前、かもしれません。
(横収差図の復習はこちら)
逆にレンズはそのまま、口径を大きくすると5次の収差が一気に悪化します。(最適化すれば少しマシになりますが、それでも悪い)
試しに、F3.5
トリプレットが明るく(口径を大きく)できない、と言われているのは、この高次の球面収差が取れないからなのかな、という印象を受けました。
推測ですが、この高次の収差を抑えるには、設計要素がもう少し必要になるのではないしょうか。
また、今回のこの操作で「絞りを絞る=横収差図をトリミングする」という感覚を掴みました。
1段絞ると、なんと両端30%(瞳座標が 1/1.41 になるので)を無視できる、ってな感じです。
絞りを絞って収差が変化するイメージ
このように図にするとわかりやすいと思います。
写真レンズのレビューなどで、開放は甘いが、1段絞ると全く別のようにシャープな…云々という批評を見かけますが、この図のように高次の収差をもったレンズがまさしくそのような挙動をするのかな、と気付きました。
本当にそんなことになるのか、ちょっと実験(シミュレーション)してみましょう。
イメージシミュレーション
このF4で設計したこのトリプレットで、差を顕著にするためにF2.8とF8.0の状態でイメージシミュレーションにかけて出力される絵を比較してみます。
まずレイファンを確認しておきます。
左:F2.8 右:F8.0
スケールを200ミクロンに合わせているので、F2.8まで口径を広げるとかなり収差が大きくなります。
続いて、シミュレーション結果。
左:F2.8 右:F8.0
F2.8では、ちょっと眠い感じの絵になるものの、思ったより破綻していないですね。芯の部分(瞳座標の中心付近)がしっかり結像するからでしょうか。
もう少し差が出る結果が欲しいなぁ、ということでもう1つシミュレーション、「Geometric Image Analysis」なるものを試してみました。
左:F2.8 右:F8.0
こちらは、差が顕著にでました。瞳座標の大きい所を通った収差の大きな光線と他の絵と混ざらないから目立ってみえるのでしょう。
実際の風景のようなごちゃごちゃした入力だと、色やシルエットでなんとなく認識できてしまうので、性能の比較がしづらいのかもしれません。
デフォルトメリットファンクションの変更
最適化のメリットファンクションは、デフォルト状態で使っていましたが、どうもこの瞳座標の高い位置の収差が気に入らなかったので、波面収差(Wavefront)からスポット径(Spot Radius)にして、RMS(平均二乗根)からPTV(Peak to Valey、最大偏差)へ変更してみました。
デフォルトメリットファンクション
左:スポットダイアグラム 右:レイファン
「RMS」と「Wavefront」の設定時よりも、全体のバランスを取って高次の収差を抑えるような結果となりました。そしてコマ収差や像面湾曲が目立つようになりました。
高次の球面収差が少しバランスよくできたので、まだ明るく(口径を大きく)できるのかな、と調子に乗ってF2.8まで口径を広げて、このMFで最適化をやり直すと、
左:レイファン図 右:MTF
レイファンでは思いの他耐えたように見えましたが、像面湾曲が強かったり、各収差がかなり劣化してしまいました。
フォーカス範囲
写真のレンズは、物体(被写体)までの距離に合わせてフォーカシングする必要がります。
マルチコンフィギュレーションで、物体までの距離を変化させてフォーカスを合わせられることのできる範囲を決めてみたいと思います。
実際の設計時には、目標仕様があったりするのでしょうけど、やっている途中にフォーカシングのことに気付いたので、適当にパラメータを振りながら探ることになりました。
(過去記事:マルチコンフィギュレーション)
フォーカシング範囲を前玉から、40cm〜無限遠として、前玉のみを繰り出してみたり、各レンズをいろいろと動かした結果、全群そのまま繰り出すのが最も性能劣化が少ないようでした。
マルチコンフィギュレーションの設定
ワーキングディスタンス 40cm レイアウト図
MTF 左:無限遠 右:40cm
システムデータ 左:無限遠 右:40cm
3群3枚全体を、約34mm 繰り出すことで無限遠〜ワーキングティスタンス400mmまでに焦点を合わせることが可能になりました。
マルチコンフィギュレーションで、フォーカシングポイントを確認
繰り出し量をプロット
このカーブに沿って、全群が繰り出す機構を設計すれば、フォーカスリングになるはずです。
さて、フォーカシングはこれくらいにしましょうか。
システムデータを見ていて、1点気になったことがあります。
レンズが繰り出して前玉から40cmにある時は、ワーキングF値が、約5.4まで暗くなっています。
実効Fナンバー
以前、「物体側NAと像側NAとその周辺の学習」というタイトルでこの辺り(実効Fナンバー)に触れました。
その際、ある程度撮影倍率が大きいマクロ領域では、実効F値が暗くなる、ということを学びました。
実効F値の算出式は、
実効F値 = (無限共役比のF値) x (倍率M + 撮影倍率)
今、実効F値がわかっているので、この設計したレンズの最大撮影倍率が、0.35と計算できます。
最大撮影倍率0.35倍(1/2.8)なら、純マクロレンズとはいえませんが、標準ズームレンズでは、MACROとついたりするレベルですね。
同等の最大撮影倍率のレンズ「SIGMA 17-70mm F2.8-4 DC MACRO OS HSM」のデジカメWatch 紹介ページ
以上、基本的に自分で気付いた点などについて、確認してみました。次回は先人の知恵を垣間見るために、トリプレットの特許を確認してみたいと思います。